モデルに必要な姿勢は「背筋を伸ばす」だけで作れるのか 骨盤・胸郭・栄養状態から考える
TOMOYUKI SHIMAWAKI(島脇 伴行) トレーナー/ヘルスコーチ|BODY DIRECTOR
参考文献:査読済み臨床試験・系統的レビュー
- ●猫背・反り腰・巻き肩・O脚・X脚など、姿勢のタイプごとに何が起きているのか、骨盤と胸郭の観点から理解できる
- ●反り腰が「必ず悪い」わけではない理由と、問題になる場合・ならない場合の違いがわかる
- ●無理なダイエットによる低栄養が、姿勢だけでなく見た目の「生気」にどう影響するかがわかる
- ●痩せ型のモデルに胃腸の不調が多い背景と、引き締まった体づくりとの違いがわかる
- ●姿勢と栄養の両方を見る必要がある理由と、自己判断の限界がわかる
「背筋を伸ばして」「胸を張って」。モデルの姿勢について語られるとき、こうした言葉が繰り返されます。もちろん、大切なことです。ですが、それだけで姿勢が整うなら、多くの人がとっくに解決しているはずです。トレーナーや、ヘルスコーチとして、モデルやモデル志望の方の身体を見てきましたが、姿勢の問題は「意識」だけでは解決しないケースがほとんどです。そもそも自分がどの姿勢タイプなのかを知らなければ、何を直すべきかもわかりません。さらに、姿勢が整っていても、栄養状態が悪ければ「生気のない見え方」になってしまうことがあります。この記事では、姿勢のタイプ分類と、見落とされやすい栄養の問題を、身体の構造という観点から考えます。
<体験談> 「背筋を伸ばして」で変わらなかった人
あるモデル志望の方が来られたとき、最初にこう言いました。「ずっと猫背を直そうとしてきたんですけど、直らないんです。」聞けば、ウォーキングレッスンにも通い、姿勢を意識する習慣もつけた。それでも写真を撮ると、どこか丸まって見える。
身体に触れてみると、すぐに理由がわかりました。この方の問題は「猫背」ではなかったのです。骨盤が後傾し、胸郭が落ち込んでいる。つまり背骨全体がCの字を描くように丸まっている状態、いわゆるC背でした。
猫背とC背は見た目が似ていますが、原因が違います。猫背は胸椎の丸まりが主ですが、C背は骨盤の傾きから連鎖して全体が崩れています。「背筋を伸ばす」という指示は、猫背には多少効いても、C背には届きません。
この方には、まず骨盤の使い方を変えるところから始めました。
姿勢タイプを知らないまま「直す」ことの問題
姿勢改善の情報は世の中にあふれていますが、そのほとんどが「良い姿勢の形」を教えるものです。壁に背中をつける、肩甲骨を寄せる、お腹を引き込む。こうした指示は、ある姿勢タイプには有効ですが、別のタイプには逆効果になることすらあります。
まず大切なのは、自分がどのタイプに当てはまるかを知ることです。姿勢のタイプは、主に骨盤の角度、胸郭の位置、肩甲骨の状態、そして膝のアライメントで分類できます。代表的なものを整理します。
これらは独立して存在するわけではなく、複数が組み合わさっていることも珍しくありません。猫背と巻き肩の併発、C背とO脚の併発などは、現場ではよく見られます。重要なのは、「姿勢が悪い」というひとくくりの言葉で済ませるのではなく、自分がどのパターンに該当するかを見極めることです。見極めなければ、何をトレーニングすべきかも決まりません。
反り腰は本当に「悪い姿勢」なのか
姿勢改善の文脈で「反り腰」は、ほぼ例外なく「直すべきもの」として扱われます。確かに、多くのケースで反り腰は腰痛の原因になります。ですが、私の現場経験では、反り腰でも腰痛がなく、見え方も美しい人がいます。その違いはどこにあるのか。
結論から言えば、腸腰筋が十分に発達し、脊柱起立筋群の腰側の筋肉が強い場合に限り、多少の反り腰は問題になりにくいと私は考えています。腸腰筋は、腰椎と大腿骨をつなぐ深層の筋肉で、骨盤の位置を安定させる役割を持ちます。脊柱起立筋の腰部は、腰椎の前弯を支える筋肉です。この二つが十分に強ければ、骨盤が前傾していても、腰椎にかかる負荷を筋肉が引き受けてくれます。
逆に、腸腰筋が弱いまま、あるいは短縮して硬くなっているだけの状態で骨盤が前傾していると、腰椎の関節や靭帯に負荷が集中し、腰痛につながります。つまり、同じ反り腰でも「筋力で支えられている反り腰」と「筋力が足りないまま反っている反り腰」はまったく別物なのです。
慢性腰痛患者158名を対象にした研究で、大腰筋(腸腰筋の主要部分)の断面積が大きい人ほど、脊柱骨盤アライメントのずれが小さく、腰椎の筋肉の状態も良好であったと報告されています。筋肉が腰椎の前弯を補償する役割を果たしていることを示唆する結果です(PubMedにて確認)。
いわゆる「下位交差症候群」として知られるパターンでは、腸腰筋の短縮と腹筋・臀筋の弱化が同時に起き、骨盤前傾と腰椎前弯の増大、そして腰痛を引き起こすことが報告されています(PubMedにて確認)。
ここで大切なのは、「反り腰=悪い」と決めつけないことです。反り腰かどうかよりも、それを支える筋肉があるかどうかが問題です。そして、それは自分で判断するのが難しい部分でもあります。鏡を見て「反っているからダメだ」と思い込んでしまうと、必要のない矯正をして、かえってパフォーマンスを落とすこともありえます。
腸腰筋が支えている場合
腸腰筋と脊柱起立筋(腰部)が十分に発達していれば、骨盤がやや前傾していても、腰椎にかかる負荷を筋肉が引き受けます。この場合、見た目にも腰のラインが自然なカーブを描き、立ち姿に安定感が出ます。モデルの中には、この「筋力に支えられた前傾」を持っている方がいます。無理に骨盤を後傾させると、かえって胸郭が落ち込み、立ち姿の印象が崩れることもあります。
<体験談②> 姿勢は整ったのに、「生気がない」と言われた
別のケースです。ある若いモデルの方は、姿勢自体はかなり整っていました。骨盤の角度も胸郭の使い方も問題ない。トレーニングも真面目に続けていて、身体のラインも悪くない。ところが、所属事務所から「もう少し生気がほしい」と言われたそうです。
生活を詳しく聞いてみると、体重を落とすために食事量をかなり絞っていました。炭水化物をほぼ抜き、タンパク質も最低限。お腹の調子も悪く、食べると張る、という状態が続いている。身体に触れると、筋肉のハリはあるものの、肌のツヤがなく、全体にどこか「薄い」印象がありました。
姿勢が整っていても、栄養が足りなければ、見え方に「生気」が出ません。肌、髪、目の力、表情の張り。これらは姿勢とは別の次元で、栄養状態が直接影響するところです。この方の場合、やるべきことは姿勢の矯正ではなく、まず食事を立て直すことでした。
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姿勢だけでは解決しない「見え方」の問題
モデルの身体づくりにおいて、姿勢と栄養は両輪です。どちらか一方だけでは、「美しく見える身体」にはなりません。姿勢が崩れていれば、どんなに栄養状態が良くても見え方が損なわれます。逆に、姿勢が完璧でも、栄養が不足していれば、生気のない印象になります。
とくに見落とされやすいのが、無理なダイエットによる低栄養の問題です。
低栄養が見た目に現れるとき
モデルの世界では、体重管理が常に求められます。その中で、食事量を極端に減らすダイエットに陥る方は少なくありません。体重は確かに落ちます。ですが、それと引き換えに失われるものがあります。
スポーツ医学の分野では、こうした状態を「利用可能エネルギー不足(LEA: Low Energy Availability)」と呼びます。運動で消費するエネルギーに対して、食事から摂るエネルギーが足りない状態です。2023年に国際オリンピック委員会(IOC)が発表した合意声明では、このLEAが消化器症状、月経異常、骨密度低下、免疫機能の低下、心血管機能の変化、心理的問題、パフォーマンスの低下など、多くの身体システムに影響を及ぼすことが明記されています。
IOCの合意声明(REDs: Relative Energy Deficiency in Sport)では、利用可能エネルギー不足が健康とパフォーマンスの両方に広範な悪影響を及ぼすことが報告されています。この影響は女性だけでなく男性にも及び、消化器系、内分泌系、骨代謝、免疫系、心血管系、心理面にわたる多系統の機能低下として現れうるとされています(PubMedにて確認)。
これはアスリートの研究ですが、身体を使う職業であるモデルにも十分に当てはまる構造です。体重を落とすために食事を絞り、それでもレッスンや撮影で身体を動かす。摂取エネルギーが消費エネルギーに追いつかない状態が続けば、身体は「修復」や「成長」よりも「生存」を優先するようになります。その結果、肌や髪のツヤが失われ、表情に力がなくなり、「痩せているのに、なぜか美しく見えない」という状態に陥ります。
痩せ型モデルと胃腸の不調
私の現場経験では、痩せ型のモデルには胃腸の状態が悪い方が多い傾向があります。食べると張る、消化が遅い、便秘が続く。こうした症状は、単に「胃腸が弱い体質」と片付けられがちですが、実際にはエネルギー不足が消化機能そのものを低下させていることがあります。
男性アスリートを対象にした研究でも、低エネルギー利用可能性の代替指標と消化器機能の障害との間に有意な関連が報告されています。LEAは消化器系だけでなく、心血管系や心理面、トレーニングへの反応低下とも関連していました(PubMedにて確認)。
胃腸の状態が悪ければ、食べたものからの栄養吸収が悪くなります。すると、さらに低栄養が進む。悪循環です。モデルとして目指すべきは、「痩せている身体」ではなく、「引き締まって、栄養状態が良い身体」です。筋肉にハリがあり、肌にツヤがあり、目に力がある。そのためには、姿勢を整えることと同じくらい、食べることを整えることが大切です。引き締まった体と痩せた体の違いについては「引き締まった体と痩せている体は何が違うのか」で詳しく解説しています。
本記事で紹介した姿勢タイプの分類は、臨床現場で広く使われている目安ですが、実際の身体は一つのタイプにきれいに当てはまるとは限りません。複数のタイプが重なっていることも多く、自己判断だけで改善策を決めるのは難しいのが実情です。また、低栄養や消化器症状に関する記述は、トレーナーの現場経験とスポーツ医学の知見を組み合わせたものであり、医療的な診断ではありません。体重の急激な減少、月経の停止、強い消化器症状が続く場合は、摂食障害や内科的疾患の可能性がありますので、必ず医療機関を受診してください。本記事の研究はアスリートを対象としたものが中心であり、モデルへの直接的な適用には限界があります。
まとめ 姿勢と栄養、どちらが欠けても「見え方」は整わない
モデルに必要な姿勢は、「背筋を伸ばす」だけでは作れません。まず、自分がどの姿勢タイプに当てはまるかを知ること。猫背なのか、C背なのか、巻き肩なのか、骨盤の傾きはどうなっているのか。それによって、取り組むべきトレーニングはまったく変わります。
そして、姿勢と同じくらい大切なのが栄養状態です。痩せていることと、引き締まって栄養状態が良いことは、まったく別のことです。食事を絞って体重を落としても、生気のない見え方になっては本末転倒です。
姿勢のタイプを見極めること、栄養状態を整えること。この二つは、どちらも自分ひとりでは正確に判断しにくいところです。鏡で見える範囲には限界がありますし、食事の偏りは自分では気づきにくいものです。まずは、ご自身の体型の傾向を知ることから始めてみてください。BODY DIRECTORのサイトでは、簡単なボディタイプ診断を用意しています。
また、姿勢が整うと、人前での「見え方」そのものが変わってきます。堂々として見える人とそうでない人の違いを、身体の状態という観点から掘り下げた「堂々として見える人とそうでない人は何が違うのか」もあわせてご覧ください。
もし「姿勢を直そうとしているのに見え方が変わらない」と感じているなら、身体の構造と栄養の両方を見てくれる専門家に相談するのも一つの方法です。
姿勢・栄養・身体の使い方のお悩み、まずはご相談ください。
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「まず体系的に学びたい」という表現者の方へ。
歌手・俳優・ステージモデルなど、声と身体を使う表現者のための身体づくりコミュニティ「VOICE COMMU」では、運動・施術・栄養・心理の4つの視点から、現場で見えてきたことを発信しています。表現者を支える側を目指す方にも。
VOICE COMMU の紹介を読む →- Seyedhoseinpoor T, Sanjari MA, Taghipour M, et al. Spinopelvic malalignment correlates to lumbar instability and lumbar musculature in chronic low back pain. Scientific Reports. 2024;14(1):31974. doi:10.1038/s41598-024-83570-6(PubMedにて確認)
- Burile G, Phansopkar P, Deshmukh NS. Prevalence of Lower Cross Syndrome in Housemaids. Cureus. 2024;16(4):e57425. doi:10.7759/cureus.57425(PubMedにて確認)
- Mountjoy M, Ackerman KE, Bailey DM, et al. 2023 International Olympic Committee’s (IOC) consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport (REDs). British Journal of Sports Medicine. 2023;57(17):1073-1097. doi:10.1136/bjsports-2023-106994(PubMedにて確認)
- Holtzman B, Kelly RK, Saville GH, et al. Low energy availability surrogates are associated with Relative Energy Deficiency in Sport outcomes in male athletes. British Journal of Sports Medicine. 2024;59(1):48-55. doi:10.1136/bjsports-2024-109165(PubMedにて確認)
1977年生まれ。2002年パーソナルトレーナーとして開業。2005年、日本で初めてとなる完全個室の表参道プライベートジム「BODY DIRECTOR」を設立。
クライアントはエンターテイメント業界のアーティストや企業経営者が中心。筋トレだけでは健康効果に限界があるとの考えから、生化学を基にした栄養指導、自律神経系の調整に有益な整体をパーソナルセッションとして提供。
法人クライアント:ポニーキャニオン(IRORI Records)、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス、トイズファクトリー、トランジットジェネラルオフィス、ラストラムミュージックほか。