集中力が続かないのは食べ方のせいか 血糖値の乱高下から考える

集中力が続かないのは食べ方のせいか 血糖値の乱高下から考える

TOMOYUKI SHIMAWAKI(島脇 伴行) トレーナー/ヘルスコーチ|BODY DIRECTOR

参考文献:査読済み臨床試験・系統的レビュー

この記事でわかること
  • 血糖値の乱高下が、集中力・感情にどう影響するか
  • 同じ食事でも血糖値の上がり方は人によって違う、という研究結果
  • 「低GI食品を食べれば大丈夫」という一般論の限界
  • 運動が血糖値の乱高下に与える影響
  • 自分にとっての”効く”対策を見極める必要性

「午後になると集中力が切れる」「無性にイライラする時間帯がある」。こうした波を、性格や気合いの問題だと捉えている方は少なくありません。ただ、身体の仕組みから見ると、血糖値の乱高下が関係している可能性があります。この記事では、血糖値と集中力・感情の関係、そして「同じ食事をしても、なぜ人によって調子の良し悪しが違うのか」を、研究データをもとに整理します。

<体験談> 同じ食事指導をしても、効果が人によって違う理由

セッションの中で、食事の内容についてアドバイスをすることがあります。同じような内容を伝えても、劇的に調子が良くなる方もいれば、ほとんど変化を感じない方もいます。当初は伝え方や実践の徹底度の違いだと考えていましたが、データを見ていくうちに、そもそも身体の反応の仕方自体が人によって違うのではないか、と考えるようになりました。

血糖値の乱高下が、集中力・感情に与える影響

食後に血糖値が急上昇すると、それを下げるためにインスリンが多く分泌されます。その反動で血糖値が急降下すると、脳へのエネルギー供給が不安定になり、集中力や判断力といった高次の機能が落ちやすくなります。また、下がりすぎた血糖値を戻すために、アドレナリンなどのストレスホルモンが分泌され、交感神経が優位になることで、イライラや落ち着きのなさにつながることもあります。「午後に集中力が切れる」「理由もなくイライラする」という感覚の背景に、こうした血糖値の変動が関わっている可能性は十分にあります。

血糖値スパイクと急降下を示す図 食後に血糖値が急上昇し、その後インスリンの作用で急降下する様子を示した図 食後の時間経過 急上昇 急降下(集中力・感情に影響)

同じ食事でも、血糖値の上がり方は人によって違う

ここで重要なのが、「低GI食品を選べば安心」という一般論には限界があるという事実です。

Zeevi氏らの研究(Cell誌)では、800人を対象に46,898食分の食事に対する血糖応答を継続的にモニタリングした結果、同じ食事をしても、人によって血糖値の上がり方に大きなばらつきがあることが示されました。血中パラメータ・生活習慣・身体活動・腸内細菌叢のデータを組み合わせた予測モデルの方が、画一的な食事指導よりも個人の血糖応答を高い精度で予測できることも確認されています。

つまり、「これを食べれば血糖値が安定する」という万人共通の正解は存在せず、自分の身体がどう反応するかを実際に把握することが、遠回りに見えて一番確実だということです。この考え方は、メンタルの状態を整える上での個別最適化の重要性とも通じています。

同じ食事に対する血糖応答の個人差を示す図 同じ食事をしても、人によって血糖値の上がり方が大きく異なる様子を示した図 同じ食事をとった場合の血糖値の変化 Aさん(反応が大きい) Bさん(反応が穏やか)

運動が血糖値の乱高下に与える影響

食べ方だけでなく、動き方も血糖値のコントロールに関わっています。Wongpipit氏らの研究(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism誌)では、30分の軽いウォーキング、あるいは30分ごとに3分歩くだけでも、食後の血糖値の上昇幅とインスリン濃度が有意に抑えられることが報告されています。Brian氏らの研究(Journal of Sports Sciences誌)でも、食後の軽いウォーキングが食後血糖値を改善することが確認されています。特別なトレーニングでなくても、食後に軽く体を動かすという選択肢があることは、知っておく価値があると思います。

<体験談>「合う対策」は、試してみないとわからない

以前、食後の眠気とイライラに悩んでいたクライアントがいました。一般的な食事指導だけではあまり変化がなかったのですが、食後の軽い運動を取り入れたところ、本人いわく「午後の集中力が別人のようだ」というほどの変化がありました。一方で、別のクライアントには同じ提案があまり響かず、食事の内容や順番を見直す方が効果的でした。「合う対策」は、人によって違う。これは何度も現場で実感していることです。

なぜ一般論だけでは不十分なのか

低GI食品を選ぶ、食べる順番を工夫する、食後に少し歩く。どれも一般的に語られる対策ですが、Zeevi氏らの研究が示す通り、これらがどの程度効くかは人によって異なります。だからこそ、一般論をまず試すことは有効な出発点ですが、そこで終わらせず、自分自身の反応を継続的に観察し、必要であれば専門家と一緒に調整していくことが重要です。睡眠不足が判断力に与える影響について書いたこちらの記事とあわせて、身体のコンディション全体を見直すきっかけにしていただければと思います。

注意点・エビデンスの限界について

本記事で紹介した研究の多くは健康な成人や特定の集団を対象にしたものであり、糖尿病など血糖値の管理が医学的に必要な状態の方には、自己判断で対策を行うのではなく、必ず主治医にご相談ください。また、慢性的な強い眠気や倦怠感が続く場合、血糖値以外の要因が関わっている可能性もあるため、医療機関での確認をおすすめします。

まとめ

血糖値の乱高下は、集中力や感情の波に影響を与えている可能性があります。ただし、「これさえ食べれば大丈夫」という万人共通の正解は存在しません。まずは一般的な対策を試しながら、自分自身の身体がどう反応するかに目を向けてみてください。

References
  1. Zeevi, D. et al. Personalized Nutrition by Prediction of Glycemic Responses. Cell. DOI: 10.1016/j.cell.2015.11.001(PubMedにて確認)
  2. Wongpipit, W. et al. Light Walking Patterns and Postprandial Cardiometabolic Responses in Young Obese Adults. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. DOI: 10.1210/clinem/dgae789(PubMedにて確認)
  3. Brian, M.S. et al. Post-meal exercise under ecological conditions improves post-prandial glucose levels but not 24-hour glucose control. Journal of Sports Sciences. DOI: 10.1080/02640414.2024.2363688(PubMedにて確認)
Author
島脇 伴行(しまわき ともゆき)
BODY DIRECTOR 代表 / アメリカスポーツ医学会認定・運動生理学士 / ヘルスコーチ(心理学学位取得済)
ACSM認定運動生理学士
ACSM 認定運動生理学士
世界最大の運動医学組織

1977年生まれ。2002年パーソナルトレーナーとして開業。2005年、日本で初めてとなる完全個室の表参道プライベートジム「BODY DIRECTOR」を設立。

クライアントはエンターテイメント業界のアーティストや企業経営者が中心。2007年からスタジアム・ドーム・アリーナ各種ツアーへの帯同を開始し、600公演以上の現場でアーティストのコンディショニング・栄養指導・整体・コーチングを担当。筋トレだけでは健康効果に限界があるとの考えから、生化学を基にした栄養指導、自律神経系の調整に有益な整体をパーソナルセッションとして提供。

法人クライアント:株式会社ポニーキャニオン(IRORI Records)、株式会社ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス、株式会社トイズファクトリー、株式会社トランジットジェネラルオフィス、株式会社ラストラムミュージック、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント ほか。

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