スクワットはシニアに必要か いつまでも動ける体という観点から考える

スクワットはシニアに必要か いつまでも動ける体という観点から考える

TOMOYUKI SHIMAWAKI(島脇 伴行) トレーナー/ヘルスコーチ|BODY DIRECTOR

参考文献:査読済み臨床試験・系統的レビュー

この記事でわかること
  • なぜシニア世代こそ脚を鍛える意味が大きいのか、筋力と「やりたいことができる体」の関係からわかる
  • 何もしないと脚の力から衰えやすいこと、そして鍛えれば取り戻せることが、体の仕組みからわかる
  • シニアのスクワットが若い世代と何が違うのか(負荷・回復・痛みへの配慮)、安全に続けるための考え方がわかる
  • 食事量が減ると運動しても筋肉がつきにくくなる理由と、運動と食事をセットで考える大切さがわかる
  • 旅行を楽しむ、杖なしで階段を上るなど、脚を鍛えることが人生の質をどう変えるのか具体的にイメージできる

スクワットは、シニア世代に必要なのでしょうか。この問いを、私は「転ばないため」「衰えないため」という守りの話としては考えていません。旅行に出かける、趣味を続ける、人と会う、行きたい場所へ自分の足で向かう。そうした、人生を楽しみ尽くすための体を保つこと。その前向きな目的のために考えたいのです。脚の力は、やりたいことを、やりたいだけ続けられるかどうかに、静かに、けれど確実に関わっています。この記事では、いつまでも動ける体という観点から、スクワットの意味を考えていきます。

<体験談> 海外旅行のトランクが、軽々運べるようになった

60代後半の、痩せタイプの女性の方がいらっしゃいました。全身のトレーニングをしばらく続けていただいたあと、こんな言葉をいただいたことがあります。「海外旅行のとき、トランクケースを動かすのが、すごく楽になったんです」と。

そして、こう続けられました。「この動作ができなくなったら、もう旅行に行けなくなる。だから、本当に嬉しい」と。私は、この言葉が忘れられません。筋力は、ただの数字ではありません。その方が大切にしている、旅という楽しみそのものを支えていた。体を鍛えるとは、こういうことなのだと、改めて教えていただいた出来事でした。

シニアこそ、脚を鍛える意味が大きい

私が現場で感じているのは、筋力があることと、その方がアクティブに生きていることには、はっきりとした関わりがある、ということです。よく動ける方は、よく出かけ、よく楽しんでいらっしゃる。脚の力は、行動範囲そのものを決めていると言ってもいいくらいです。

そして、ここが大切な点です。私の経験では、シニア世代が何もしないでいると、上半身や体幹よりも、下半身の筋肉量の低下が、割合として大きくなっていきます。つまり、衰えは脚から始まりやすいのです。立つ、歩く、階段を上る。生活のいちばん土台になる動きを支えるのが脚ですから、ここが弱ると、できることが少しずつ狭まってしまいます。逆に言えば、脚から鍛えることには、それだけ大きな意味があるということです。

Research — Interdisciplinary Topics in Gerontology, 2010

PubMedで確認できる総説によると、加齢に伴う筋力の低下は、70歳代までにおよそ20〜40%に達します。そして、加齢による筋肉の衰え(サルコペニア)は、60〜70代では20%以上、75歳以上ではおよそ半数に見られると報告されています。これは、何もしなければ筋力は確実に落ちていくという事実であると同時に、だからこそ早めに手を打つ意味が大きいことを示しています。

Research — Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition, 2016

PubMedで確認できる、60〜99歳を対象とした研究では、下半身において、歩く速さ(脚の働き)が、筋肉の量そのもの以上に速く低下していくことが示されました。つまり、ただ筋肉の量を保つだけでなく、脚を実際に使い、働かせ続けることが、動ける体を保つうえで大切だということです。脚は、使ってこそ応えてくれます。

シニアのスクワットは、若い世代とここが違う

「では、さっそくスクワットを」と言いたいところですが、ここで大切なことがあります。シニア世代のスクワットは、若い世代とまったく同じようにやってはいけません。いくつか、決定的に違う点があるのです。

まず、関節の付近に痛みが出やすくなります。長く使ってきた関節ですから、若い頃と同じ負荷をかければ、膝や腰がそれに反応してしまう。そして、その負荷が強すぎた場合、体が反応を起こすだけでなく、回復までにかかる時間も長くなります。若い人なら一晩で戻る疲れが、数日続くこともある。ですから私は、負荷を一律に決めるのではなく、その方の関節の状態や回復の早さを見ながら、慎重に設定していきます。

この「安全な負荷の見極め」こそ、プロの個別評価がもっとも活きるところです。強すぎれば痛めてしまい、弱すぎれば効果が出ない。その方にとってちょうどよい一点を、体に触れ、動きを見て、対話しながら探していく。これは、一般的な目安の数字だけでは決して導けないものです。長く楽しむための、賢い体づくり。そう考えていただくのがよいと思います。

Research — Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle, 2018

PubMedで確認できる研究では、加齢に伴って、筋肉の「量」よりも「働き・機能」のほうが速く低下していくことが示されています。さらに、脚(膝を伸ばす力)の強さは、太ももの筋肉の状態と強く関わっていました。だからこそ、ただ闇雲に量をこなすのではなく、太ももをはじめとする脚の筋肉を、質を保ちながら使い続けることが大切になります。

食事が減ると、鍛えても筋肉がつきにくい

もう一つ、シニア世代で見落とせないのが、食事です。年齢を重ねると、食べる量が自然と減っていく方が少なくありません。けれど、食事量が減ったままトレーニングをしても、筋肉の材料が足りず、せっかく鍛えても筋肉がつきづらくなってしまいます。

ですから私は、運動の内容だけでなく、何をどれくらい食べていらっしゃるかも、必ず確認します。運動と栄養は、両輪です。どちらか一方では、体は思うように応えてくれません。BODY DIRECTORが、トレーニングと栄養指導を合わせて提供しているのは、まさにこのためです。鍛えるなら、それが実を結ぶ土台もきちんと整える。それが、遠回りに見えていちばん確かな道なのです。

<体験談> 制限の中で、杖なしで階段を上れるように

人工透析を受けていらっしゃる方の体づくりに、携わったことがあります。透析のため、タンパク質の摂取に制限があり、全身の筋肉量を大きく増やすことは難しいと判断しました。そこで方針を切り替え、下半身に的を絞って、活動し続けられる体を目標に運動を組み立てました。

結果は、はっきりと表れました。下半身の筋肉は確実に育ち、歩くときのふらつきが減り、階段の上り下りが、杖なしでできるようになったのです。制約があっても、その中でできることを見極めて集中すれば、道は開けます。大切なのは、何ができないかではなく、今の体で何を取り戻せるか。その一点を、一緒に見つめることだと思っています。

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いつまでも動ける体は、自分への投資

ここまでお話ししてきて、お伝えしたいことが見えてきたと思います。シニア世代にとってのスクワットや脚のトレーニングは、「衰えないため」の守りというより、「やりたいことを、ずっと続けるため」の前向きな投資だ、ということです。旅に出る、趣味に打ち込む、大切な人と出かける。その自由を、自分の足で支え続けるための準備なのです。

ただし、その投資を確かなものにするには、いくつかの条件があります。負荷を慎重に選ぶこと。回復の時間を見ること。痛みのサインを見逃さないこと。そして、食事という土台を整えること。これらを、その方の体に合わせて一つひとつ見ていく。だからこそ、専門家の目が活きるのです。やみくもに頑張るのではなく、賢く、安全に、長く。それが、いちばん遠くまで動ける体への道です。

01
負荷は控えめから
関節は反応しやすいもの。若い頃の感覚で重くせず、低めの負荷から無理なく始めます。
02
回復を待つ
回復に時間がかかる年代です。疲れが残るなら休み、回復に合わせて頻度を整えます。
03
痛みは我慢しない
関節の痛みはサインです。無理に乗り越えようとせず、専門家に伝えて調整します。
04
食事も整える
食べる量が減ると筋肉はつきにくいもの。運動と栄養を両輪でそろえて進めます。

スクワットが体にもたらす効果については、別の記事で詳しくまとめています。あわせて読みたい方は、スクワット効果の新事実:科学が証明する8つの驚きのメリットもご覧ください。脚の力だけでなく、スクワットが心と体にもたらす幅広い価値が見えてきます。

注意点・エビデンスの限界について

心臓・関節・腎臓などに持病がある方、服薬中の方は、運動を始める前に必ず医師にご相談ください。運動中に膝や腰の痛み、強い息切れ、めまいなどを感じたら、我慢せず中止し、専門家に伝えてください。痛みは体からの大切なサインです。また、筋肉のつき方や回復のスピードには、年齢・体質・持病などによる大きな個人差があり、この記事で紹介した研究や一般論が、そのまますべての方に当てはまるわけではありません。自分に合った安全な進め方は、専門家とともに見極めていくことをおすすめします。

まとめ 守りではなく、楽しみ続けるために

スクワットは、シニア世代にとって「衰えないための守り」ではありません。旅に出る、趣味を楽しむ、行きたい場所へ自分の足で向かう。やりたいことを、ずっと続けていくための、前向きな手段です。何もしなければ脚から衰えやすいからこそ、脚を鍛える意味は大きく、そして鍛えれば、体はちゃんと応えてくれます。

大切なのは、その進め方です。負荷を控えめに、回復を待ち、痛みのサインを見逃さず、食事という土台も整える。自分の体に合わせて、安全に、長く続けること。海外旅行のトランクを軽々運べた方も、杖なしで階段を上れるようになった方も、特別な人ではありません。今の体に合った一歩を、着実に重ねた方々です。あなたの「やりたい」を、いつまでも支える体づくりを、今日から始めてみませんか。

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References
  1. Berger MJ, Doherty TJ. Sarcopenia: prevalence, mechanisms, and functional consequences. Interdiscip Top Gerontol. 2010;37:94-114. doi:10.1159/000319997(PubMedにて確認)
  2. Bai HJ, Sun JQ, Chen M, et al. Age-related decline in skeletal muscle mass and function among elderly men and women in Shanghai, China: a cross sectional study. Asia Pac J Clin Nutr. 2016;25(2):326-32. doi:10.6133/apjcn.2016.25.2.14(PubMedにて確認)
  3. Bourgeois B, Fan B, Johannsen N, et al. Improved strength prediction combining clinically available measures of skeletal muscle mass and quality. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019;10(1):84-94. doi:10.1002/jcsm.12353(PubMedにて確認)
Author
島脇 伴行(しまわき ともゆき)
BODY DIRECTOR 代表 / アメリカスポーツ医学会認定・運動生理学士 / ヘルスコーチ

1977年生まれ。2002年パーソナルトレーナーとして開業。2005年、日本で初めてとなる完全個室の表参道プライベートジム「BODY DIRECTOR」を設立。

クライアントはエンターテイメント業界のアーティストや企業経営者が中心。筋トレだけでは健康効果に限界があるとの考えから、生化学を基にした栄養指導、自律神経系の調整に有益な整体をパーソナルセッションとして提供。

法人クライアント:ポニーキャニオン(IRORI Records)、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス、トイズファクトリー、トランジットジェネラルオフィス、ラストラムミュージックほか。

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