スクワットはやる気を高めるのか テストステロンと実行力の観点から考える
TOMOYUKI SHIMAWAKI(島脇 伴行) トレーナー/ヘルスコーチ|BODY DIRECTOR
参考文献:査読済み臨床試験・系統的レビュー
- ●なぜスクワットが脳を活性化させるのか、使われるニューロンの多さという仕組みからわかる
- ●スクワットがテストステロンの分泌を促し、やる気や実行力を高めることが、研究をもとに理解できる
- ●筋力トレーニングが脳の代謝やホルモンバランスを整え、認知機能を支えることが、エビデンスからわかる
- ●体を鍛えることが、論理だけに頼らない、より良い判断力やメンタルの安定につながる理由が、プロの視点から見えてくる
- ●なぜ運動を続けられているときは心も体も調子がいいのか、その実感が体の仕組みから裏づけられる
「最近、やる気が出ない」「頭がうまく働かない」。そう感じるとき、私たちはつい、気持ちの問題だと考えがちです。けれど、やる気や実行力、判断の冴えは、気合いだけで決まるものではありません。その土台には、体とホルモンの確かな仕組みがあります。私はトレーナーとして、経営者やアーティストなど、頭とメンタルを酷使する方々を数多く見てきました。その経験から確信しているのは、体を鍛えることが、心と思考を静かに、けれど力強く支えるということです。この記事では、スクワットとやる気の関係を、テストステロンと実行力という観点から考えていきます。
<体験談> 運動を続けているときは、なぜか心も頭も調子がいい
これは、私自身がはっきりと感じていることでもあります。運動を定期的に行えているときは、心の状態が良い。もちろん、体の状態も良い。逆に、忙しさにかまけて運動から離れてしまうと、気分まで少しずつ重くなっていく。多くの方が、同じことをおっしゃいます。
当ジムのお客様の多くも、この効果を実感されています。体だけでなく、気持ちや頭の冴えが変わる。だからこそ、10年、15年と長く続けてくださる方が、たくさんいらっしゃいます。一時的なダイエットのためではなく、心と頭のコンディションを保つために通い続ける。その姿が、運動と心のつながりを、何より雄弁に物語っていると思います。
スクワットは、脳を大きく動かす運動
なぜスクワットが、心や頭に効くのでしょうか。理由の一つは、スクワットが脳を大きく動かす運動だからです。スクワットは、体の中でも大きな筋肉を、いくつもの関節を使って同時に動かします。その動きを生み出すために、脳はたくさんの神経細胞(ニューロン)を働かせる必要があります。
使われるニューロンの数が多いということは、それだけ脳が活性化しやすいということです。小さな筋肉を一つだけ動かす運動と、全身を使ってしゃがんで立ち上がる運動とでは、脳に送られる信号の大きさがまるで違います。スクワットは、ただ脚を鍛えているのではありません。脳に向けて、大きな号令をかけている運動でもあるのです。
テストステロンが、やる気と実行力を押し上げる
もう一つの大きな理由が、ホルモンです。スクワットのような下半身を使う筋力トレーニングは、テストステロンというホルモンの分泌を促します。テストステロンと聞くと男性のものというイメージがあるかもしれませんが、女性にも分泌され、やる気や意欲、行動を起こす力に関わる、大切なホルモンです。
このテストステロンが、やる気や、脳の実行力を高めることには、因果関係があると私は考えています。物事に取りかかる意欲、決めたことをやり遂げる力。そうした前に進む力が、体を動かすことで内側から湧いてくる。気合いを入れるのではなく、体の仕組みを使って、意欲そのものを底上げするということです。
PubMedで確認できる研究では、6セットのスクワットを行ったところ、運動の直後にテストステロンが約25%、一時的に増加しました。これは女性を対象とした研究での結果です。スクワットという運動そのものが、ホルモンの分泌を確かに動かすことを示しています。意欲や行動力に関わるホルモンが、しゃがんで立ち上がるという動作によって引き出される。それが数字で確かめられているのです。
ホルモンと脳は、つながっている
筋力トレーニングというシグナルは、テストステロンだけでなく、脳の代謝やホルモンのバランスそのものを整え、強化していきます。体を鍛えることは、脳の環境を整えることでもあるのです。これは、意識して感じられる気分の変化だけでなく、自分では気づかない無意識の働きまで含めて、底上げされていきます。
体を動かすことが脳を変えるというのは、もはや特別な主張ではなく、多くの研究で確かめられた、一般化した効果です。スクワットに限らず、筋力トレーニングや心肺機能を高める運動が、脳に良い変化をもたらすことは、広く知られるようになってきました。
PubMedで確認できる系統的レビューとメタ解析では、筋力トレーニングが、物事を計画し実行する力(実行機能)や認知機能を高めることが示されています。その背景には、脳の栄養となるタンパク質(BDNF)や、性ホルモンの働きが関わっていると考えられています。運動が心と頭に効くのは、気のせいではなく、脳とホルモンのレベルで起きている変化なのです。
<体験談> 考え込まずに、すっと良い判断ができるようになった
頭を使う仕事をされている方に、よくある変化があります。トレーニングを続けるうちに、「以前より、考え込まずに決められるようになった」とおっしゃるのです。あれこれ理屈をこねて迷うのではなく、すっと、これだという判断ができる。しかも、その判断が、なかなか的を射ている。
ご本人は「なぜか分からないけれど、調子がいい」とおっしゃいます。私は、これは偶然ではないと感じています。体を整えることで、意識の奥にある力が働きやすくなり、論理で一つひとつ確かめる遠回りをせずとも、良い判断にたどり着けるようになる。体と頭は、思っている以上に深くつながっているのです。
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無意識の力が、より良い判断を支える
ここからお話しすることは、研究で証明された事実というより、私が現場で長く観察してきた中で確信するに至った、一つの考えです。そのつもりで読んでいただければと思います。
筋トレによって、無意識下の能力が強化されると、私は感じています。意識して論理を組み立て、一つひとつ理解していく回路は、確かさはありますが、遠回りでもあります。体が整い、無意識の働きが豊かになると、その遠回りの回路を使わなくても、ベターな判断をする確率が上がっていく。これが、いわゆる直感と呼ばれるものの正体ではないかと思うのです。経験を積んだ経営者やアーティストが、理屈を超えて良い決断をする。その背景には、整えられた体があることが少なくありません。
だからこそ私は、フィジカルが、判断やメンタルを支えていると考えています。体は、心と思考の土台です。その土台が整っていれば、上に乗る判断力も、メンタルの安定も、おのずと強くなる。判断とメンタルを酷使する方にとって、体を鍛えることは、見た目のためというより、思考とメンタルへの確かな投資なのです。スクワットは、その投資の中でも、特に効率の良い一手だと言えます。
スクワットが体にもたらす効果の全体像については、別の記事で詳しくまとめています。あわせて読みたい方は、スクワット効果の新事実:科学が証明する8つの驚きのメリットもご覧ください。脳やメンタルへの効果を含め、スクワットが持つ幅広い価値が見えてきます。
ホルモンの反応や、脳・認知機能への効果には、年齢・性別・体質による個人差があります。また、運動だけで気分の落ち込みや不調が必ず解決するわけではありません。気分の落ち込みが長く続く場合や、つらさが強い場合は、無理をせず、医師や専門家にご相談ください。なお、この記事の後半で述べた「無意識の力が直感的な判断を支える」という見方は、私自身の臨床的な観察にもとづく考えであり、研究によって確立された因果関係ではありません。紹介した研究も、対象や条件に限りがあります。体と心のつながりには、まだ分かっていないことも多くあります。
まとめ 鍛えることは、思考とメンタルへの投資
やる気や実行力、判断の冴えは、気合いだけで決まるものではありません。その土台には、体とホルモンの確かな仕組みがあります。スクワットは、多くのニューロンを使って脳を大きく動かし、テストステロンの分泌を促し、脳の代謝やホルモンのバランスを整えます。やる気が湧くのも、頭が冴えるのも、体の側から確かに支えられているのです。
運動を続けているときは、心も体も調子がいい。多くの方が実感し、長く通い続けてくださるのは、それが偶然ではないからです。体を鍛えることは、見た目を変えるだけの行為ではありません。思考とメンタルという、人生のいちばん大事な部分を支えるための、確かな投資です。やる気が出ないと感じたとき、まず体を動かしてみる。その一歩が、心と頭を、内側から変えていきます。
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- Nindl BC, Kraemer WJ, Gotshalk LA, et al. Testosterone responses after resistance exercise in women: influence of regional fat distribution. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2001;11(4):451-65. doi:10.1123/ijsnem.11.4.451(PubMedにて確認)
- Barha CK, Davis JC, Falck RS, Nagamatsu LS, Liu-Ambrose T. Sex differences in exercise efficacy to improve cognition: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials in older humans. Front Neuroendocrinol. 2017;46:71-85. doi:10.1016/j.yfrne.2017.04.002(PubMedにて確認)
- Cook CJ, Kilduff LP, Beaven CM. Improving strength and power in trained athletes with 3 weeks of occlusion training. Int J Sports Physiol Perform. 2014;9(1):166-72. doi:10.1123/ijspp.2013-0018(PubMedにて確認)
1977年生まれ。2002年パーソナルトレーナーとして開業。2005年、日本で初めてとなる完全個室の表参道プライベートジム「BODY DIRECTOR」を設立。
クライアントはエンターテイメント業界のアーティストや企業経営者が中心。筋トレだけでは健康効果に限界があるとの考えから、生化学を基にした栄養指導、自律神経系の調整に有益な整体をパーソナルセッションとして提供。
法人クライアント:ポニーキャニオン(IRORI Records)、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス、トイズファクトリー、トランジットジェネラルオフィス、ラストラムミュージックほか。