リハでは出るのに本番で声が締まるのはなぜか|緊張による力みを身体の側から考える
TOMOYUKI SHIMAWAKI(島脇 伴行) トレーナー/ヘルスコーチ|BODY DIRECTOR
参考文献:査読済み臨床試験・系統的レビュー
- ●リハでは出るのに本番で声が締まるのはなぜか、その仕組みを緊張と身体の反応から理解できる
- ●喉の力みが「歌い方の問題」なのか「緊張による身体の反応」なのか、切り分ける入口がわかる
- ●緊張すると首・肩・喉まわりに何が起きるのか、自律神経と呼吸の観点から理解できる
- ●なぜ「喉の力を抜いて」と言われてもできないのか、その理由が身体の側からわかる
- ●自分の力みが本番特有のものか、ふだんから抜けていないのか、自分では見分けにくい理由がわかる
リハーサルでは気持ちよく出ていた声が、本番のサビで急に締まる。喉に力が入り、思うように響かない。声を使う仕事をしていれば、一度は経験があるのではないでしょうか。不思議なのは「練習では出る」という点です。もし技術が足りないのなら、リハでも同じように出ないはずです。それなのに本番だけ締まる。実は、ここにこの現象の本質があります。私はライブ現場に長く帯同し、本番の声を客席で聞き、終演直後にアーティストの首や喉に触れてきました。その経験から申し上げると、本番だけの喉の締まりは、多くの場合「歌い方」ではなく「緊張による身体の反応」です。この記事では、それを身体の側から考えます。
<体験談> 同じ喉、リハと本番の落差
あるシンガーは、リハーサルではまったく問題なく高音まで伸びるのに、本番になると決まってサビで声が締まりました。本人は「自分の実力不足だ」と思い込み、発声練習の量をどんどん増やしていました。ですが、私が客席で本番の声を聞き、リハの声と聞き比べてみると、技術が落ちているわけではないと分かりました。声そのものは出せている。ただ、本番になると喉まわりに余計な力が入り、その力が響きを止めてしまっていたのです。
終演後、首と喉のまわりに触れてみると、リハ後とはまるで張りが違いました。特定の場所がぎゅっと硬くなり、左右でも差がある。これは技術の問題ではないな、と私は感じました。練習をいくら積んでも、本番の身体の状態が変わらなければ、同じことが起こり続ける。彼女に足りなかったのは、発声練習ではなかったのです。
喉の力みは「歌い方」だけの問題ではない
「喉が締まる」「喉に力が入る」と検索すると、出てくる情報のほとんどは発声技術の話です。舌の位置、顎の開き方、息の使い方、声帯の閉じすぎ。これらは確かに大切で、ボイストレーナーや音声の専門家が扱う重要な領域です。そして、はっきり申し上げておきます。声の出し方そのものに癖があって喉に負担がかかっているのなら、それは発声技術の問題であり、私の専門外です。その場合は、信頼できるボイストレーナーや専門医に相談していただくのが筋だと考えています。
ただ、喉の力みには、もう一つ別の種類があります。それが、本番の緊張によって起こる身体の力みです。この2つを見分ける、いちばん分かりやすい手がかりがあります。それは「リハーサルでは出るかどうか」です。もし発声技術そのものの問題なら、リハでも本番でも同じように出にくいはずです。ところが、リハでは気持ちよく出るのに本番だけ締まるのなら、声の出し方が原因とは考えにくい。本番という場面で身体に何かが起きている、と見るほうが自然です。この記事で扱うのは、こちらの「本番の緊張による力み」のほうです。
緊張すると身体に何が起きるのか
本番という場面では、誰でも交感神経が高ぶります。心拍が上がり、呼吸が浅く速くなり、無意識のうちに全身に力が入る。このとき、首や肩、そして喉のまわりの筋肉にも余計な緊張が生まれます。声は、喉だけでなく呼吸と全身の支えでつくられるものですから、呼吸が浅くなり喉まわりが締まれば、当然ながら声は本来の響きを失います。つまり本番の声の締まりは、喉単体の不調ではなく、緊張に対する身体全体の反応の一部なのです。
ここで興味深いのは、その反応の出方に個人差があるという点です。同じ「人前で話す」という緊張の場面でも、喉まわりにどれだけ力が入るかは人によって違います。
人前で話すストレス下では、参加者全体で発声の努力感が増し、声の音響的な指標が低下した一方、喉頭まわりの筋活動の高まり方には個人差が見られたと報告されています。緊張で声が締まること、そしてその締まり方が人によって異なることを示す一例です(PubMedにて確認)。
そして、この身体の緊張は、喉だけをどうにかしようとしても解けにくいものです。
喉まわりの筋肉が過剰に働いてしまう状態(筋緊張性発声障害)に対し、徒手療法・運動・ストレス管理を組み合わせたところ、首や顎の可動域が広がり、声の状態にも改善が見られたと報告されています。声の問題が、喉そのものではなく首・肩・全身の緊張から来ている場合があることを示す一例です。ただしこれは少数例の報告であり、効果を確定するにはより規模の大きな研究が必要だとされています(PubMedにて確認)。
私が本番で見ている力みのサイン
では、私は何を手がかりに「これは緊張による力みだ」と見立てるのか。一つは、本番の声です。長年ライブに帯同していると、リハの声と本番の声の差に、力みは表れます。同じフレーズでも、本番では響きが奥に引っ込む、特定の音域で詰まる。耳で聞けば、技術の問題なのか、力みなのかは、かなりの程度わかります。
もう一つは、終演後やリハ後に、首や喉のまわりに直接触れることです。力みが強い人は、喉のまわりや首すじの特定の場所がはっきりと硬くなっていて、左右で張りの差が出ていることも多い。この「触れて分かる張りと左右差」は、本人が鏡を見ても、自撮りをしても、確認できないものです。実際にその場で声を聞き、身体に触れている人間にしか拾えない情報です。私がボイストレーナーでも整体院でもなく、ライブの現場でこの仕事をしてきた意味は、ここにあると思っています。
<体験談> 「力を抜いて」が、いちばん難しい
別のシンガーは、レッスンでも周囲からも、ずっと「本番は喉の力を抜いて」と言われ続けていました。本人もそうしようと必死でした。ですが、いくら意識しても抜けない。むしろ「抜かなければ」と思うほど、よけいに力が入っていく悪循環でした。
実際に本番の声を聞き、終演後の身体に触れてみると、この方の力みは喉単体の問題ではなく、本番の強い緊張に対する全身の反応でした。呼吸が浅くなり、首・肩が固まり、その一部として喉が締まっていたのです。だとすれば、「喉の力を抜く」という指示だけでは解けないのは当然でした。力が入っていたのは、喉ではなく身体全体だったのですから。足りなかったのは意識ではなく、原因を身体の側から見極める視点でした。ご自身を責める必要は、まったくなかったのです。
自分の喉の力みがどこから来ているのか、知りたい方へ。
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自分でできること、できないこと
ここまで読んで、「では自分はどうすればいいのか」と思われたかもしれません。できることは、確かにあります。本番前に呼吸を整える、肩や首をゆるめておく、自分なりのルーティンで交感神経の高ぶりを和らげる。こうした「身体をゆるめて本番に臨む」という原理は誰にでも共通で、取り組む価値があります。
一方で、自分ひとりでは見極めにくいこともあります。あなたの力みが本番だけのものなのか、それともふだんから抜けきっていないのか。力みが出ているのが喉なのか、首なのか、呼吸なのか。そして、そもそもそれが緊張による力みなのか、発声技術の問題(専門家の領域)なのか。これらの切り分けは、声を聞き、身体に触れ、本番前後の様子を重ねて、ようやく見えてくるものです。チェックリストで判定できるほど単純ではありません。
なお、声を支える筋肉や呼吸の仕組みそのものについては、「発声に必要な筋肉とは何か」で詳しく解説しています。声を使う身体の土台を知りたい方は、あわせて読んでみてください。また、本番の緊張とは別に、全身の疲労や炎症が声の不調につながるケースもあります。こちらは別の記事(炎症編)で扱う予定です。
本記事で述べた力みのとらえ方は、私の現場での観察に基づく整理であり、すべての喉の締まりを説明するものではありません。声が出ない状態が続く、特定の場面で声が詰まって途切れる、話すときだけ症状が出るといった場合には、痙攣性発声障害をはじめとする医療的な対応が必要な疾患の可能性もあります。自己判断でケアを続けず、耳鼻咽喉科や音声の専門医を受診してください。本記事は診断や治療に代わるものではありません。
まとめ 身体がゆるめば、声は戻る
リハでは出るのに本番で声が締まる。これは多くの場合、発声技術の問題ではなく、本番の緊張に対する身体の反応です。交感神経が高ぶり、呼吸が浅くなり、首・肩・喉まわりが締まる。その一部として声が止まる。だからこそ、喉だけをどうにかしようとしても、なかなか解けません。
回復への道は、喉の力を抜こうと念じることではなく、緊張したときに自分の身体に何が起きているかを知ることから始まります。そして正直なところ、その切り分けはご自身ひとりでは難しい。声を聞き、身体に触れて、初めて見えてくるものだからです。原理は誰にとっても共通でも、あなたの力みの正体は、あなただけのもの。もし「自分の声の締まりがどこから来ているのか知りたい」と感じたら、一度ご相談ください。
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VOICE COMMU の紹介を読む →- Tomlinson CA, Archer KR. Manual therapy and exercise to improve outcomes in patients with muscle tension dysphonia: a case series. Physical Therapy. 2015;95(1):117-128. doi:10.2522/ptj.20130547(PubMedにて確認)
- Dietrich M, Verdolini Abbott K. Vocal function in introverts and extraverts during a psychological stress reactivity protocol. Journal of Speech, Language, and Hearing Research. 2012;55(3):973-987. doi:10.1044/1092-4388(2011/10-0344)(PubMedにて確認)
1977年生まれ。2002年パーソナルトレーナーとして開業。2005年、日本で初めてとなる完全個室の表参道プライベートジム「BODY DIRECTOR」を設立。
クライアントはエンターテイメント業界のアーティストや企業経営者が中心。筋トレだけでは健康効果に限界があるとの考えから、生化学を基にした栄養指導、自律神経系の調整に有益な整体をパーソナルセッションとして提供。
法人クライアント:ポニーキャニオン(IRORI Records)、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス、トイズファクトリー、トランジットジェネラルオフィス、ラストラムミュージックほか。