ライブ後に喉が疲れるのはなぜか|疲れの原因を3つのタイプから考える
TOMOYUKI SHIMAWAKI(島脇 伴行) トレーナー/ヘルスコーチ|BODY DIRECTOR
参考文献:査読済み臨床試験・系統的レビュー
- ●なぜライブやリハの後に喉が疲れるのか、声の出し方だけでなく身体全体の状態から理解できる
- ●同じ喉の疲れでも、原因は人によって違い、大きく3つのタイプに分かれることがわかる
- ●自分の疲れが「歌い方の問題(専門家の領域)」なのか、それとも別の原因なのかを切り分ける入口がわかる
- ●緊張や力みで喉を締めてしまうタイプと、全身の疲労や炎症で回復が遅れるタイプの違いがわかる
- ●なぜ喉の疲れは自分ひとりでは原因を見分けにくいのか、その理由がわかる
ライブやリハーサルのあと、声がガラガラになる。声を使う仕事をしている方なら、多くが経験することだと思います。ですが不思議なもので、同じように歌っても、翌朝にはすっかり戻っている人と、何日も声が抜けない人がいます。この違いは、どこから来るのでしょうか。私はトレーナーとして数多くのアーティストのライブに帯同し、終演直後の声を聞き、首や喉まわりの身体に触れてきました。その経験から申し上げると、ライブ後の喉の疲れには、人によって異なる原因があります。この記事では、その原因を大きく3つのタイプに分けて考えます。
<体験談> 同じステージ、違う回復
ある夏、同じツアーに帯同していた二人のシンガーがいました。曲数も、声量も、ステージの過酷さもほぼ同じです。それなのに、一人は打ち上げを終えて翌朝にはもう普通に話せている。もう一人は、二日経っても声がかすれ、三日目のリハでようやく戻る。最初に見たとき、私は単純に「喉の強さの差かな」と思いました。ですが、何本もステージを重ねるうちに、そうではないと気づいていきます。
回復が遅いシンガーは、本番前から肩と首がいつも硬く、終演後に喉のまわりを触れると、左右で張りの出方がはっきり違いました。一方、もう一人は本番が終わると、まるで運動を終えたあとのように身体がゆるんでいく。同じ「ライブ後の喉の疲れ」でも、起きていることはまるで別物だったのです。これは、と思いました。喉だけを見ていては、この差は説明できない。
ライブ後の喉の疲れは、ひとつの原因ではない
「ライブ後の喉ケア」と検索すると、たくさんの情報が出てきます。常温の水をこまめに飲む、はちみつやハーブティーで喉をいたわる、冷たい飲み物を避ける、寝るときはマスクをする、しゃべらず休ませる。どれも間違ってはいません。私のクライアントにもおすすめすることがあります。
ですが、ここには一つ見落とされがちな前提があります。それは「全員に同じケアが効くわけではない」ということです。喉が疲れる原因が人によって違うのなら、効く対策も人によって変わります。原因が違うのに同じケアを当てはめても、効く人には効き、効かない人にはいつまでも効かない。回復が遅いと悩んでいる方の多くは、ケアの量が足りないのではなく、自分の原因に合わないケアを続けてしまっているのです。
声帯は、繊細な粘膜と筋肉でできた器官です。長時間の発声で軽い炎症やむくみが起きること自体は、運動後の筋肉と同じで自然な反応です。問題は、その回復の早さや起こり方が、その人の全身の状態に大きく左右されるという点にあります。
ある舞台俳優が、公演を重ねた末に舞台上で突然声を失った症例が報告されています。声帯には明らかな損傷が確認されましたが、本人の発声技術や全身のコンディションといった要因が回復を後押しし、わずか数日で舞台に復帰できたと考察されています。同じような声帯への負荷でも、回復の早さは喉だけで決まるわけではない。全身状態が深く関わることを示す一例です(PubMedにて確認)。
つまり、ライブ後の喉の疲れを考えるときに大切なのは、「どうケアするか」の前に「なぜ自分は疲れているのか」という問いです。原因の見当がつかないままケアを足していくのは、地図を持たずに歩き続けるようなものです。そこでまず、原因を大きく3つのタイプに分けて整理してみます。
喉の疲れを分ける3つのタイプ
私がこれまで多くのシンガーを見てきた中で、ライブ後の喉の疲れの背景にある原因は、おおむね次の3つに分けられます。もちろん厳密には複数が重なることも多いのですが、まずは大づかみに捉えることが、自分の状態を理解する第一歩になります。
タイプ1(歌い方・発声の問題)は、正直に申し上げて私の専門外です。声の出し方そのもの、たとえば喉に負担のかかる発声の癖や、高音の出し方といったテクニックの問題は、ボイストレーナーや音声の専門医が扱う領域です。私がここに踏み込んで「こう歌えば治る」と言うことはしません。もし声を出すたびに喉が痛む、特定の音域で必ず詰まるといった場合は、まず発声の専門家に相談していただくのが筋だと考えています。この線引きを曖昧にしないことが、かえって残りの2つに対する私の役割をはっきりさせると思っています。
私が身体の専門家として向き合えるのは、タイプ2とタイプ3です。
タイプ2は、緊張や力みで喉を締めてしまうパターンです。本番という場面では、誰しも交感神経が高ぶります。心拍が上がり、呼吸が浅くなり、首や肩、喉まわりの筋肉に無意識の力が入る。この状態で歌い続ければ、声帯そのものより先に、その周囲の筋肉が過度に働いて疲れてしまいます。終演後に喉や首を触れたときの張りの強さ、左右差は、このタイプを見分ける手がかりの一つです。
喉まわりの筋肉が過剰に働いてしまう状態(筋緊張性発声障害)の患者に対し、徒手療法・運動・ストレス管理を組み合わせた介入を行ったところ、首や顎の可動域が広がり、声の状態にも改善が見られたと報告されています。声の問題が、喉そのものではなく、首や肩を含む身体の緊張から来ている場合があることを示す一例です。ただしこれは少数例の報告であり、効果を確定するにはより規模の大きな研究が必要だとされています(PubMedにて確認)。
タイプ3は、全身の疲労や炎症が、声帯の回復を遅らせているパターンです。ツアー中の睡眠不足、偏った食事、連日の移動による疲労の蓄積。こうした全身のコンディションの乱れは、身体全体の炎症が引きにくい状態を作り、声帯という末端の回復にも影響します。冒頭の体験談で、回復の早かったシンガーと遅かったシンガーの差。あれの少なくとも一部は、このタイプの違いだったと私は見ています。同じステージに立っても、土台となる身体の状態が違えば、翌朝の声は変わるのです。
タイプ2と3は、似て見えて切り分けが難しい
ここからが、この記事で最もお伝えしたいところです。タイプ2(力み)とタイプ3(炎症)は、本人の自覚症状の上ではよく似ています。どちらも「ライブ後に喉が重い」「声が抜けない」「翌日も疲れが残る」という、ほとんど同じ訴えになる。ですが、原因が違うので、必要な対策はまるで異なります。
力みが主な原因の人に、いくら睡眠や栄養を整えるよう伝えても、本番での緊張のパターンが変わらなければ喉の締まりは続きます。逆に、全身の炎症が主な原因の人に、首や肩をゆるめるケアだけをすすめても、土台の疲労が抜けなければ回復は追いつきません。さらに厄介なのは、多くの場合この2つが重なっていることです。緊張しやすい時期は睡眠も乱れがちで、両方が絡み合う。すると、自分がどちらに重心を置いてケアすべきかが、ますます見えなくなります。
そして率直に言えば、このタイプ2と3の切り分けは、ご自身ではかなり難しいものです。私はクライアントの場合、本番の声を実際に聞き、終演後の喉や首まわりに触れ、生活習慣を伺い、必要であれば血液検査の結果を一緒に読み解いて、ようやく「この方はどちらの比重が大きいか」を見立てます。鏡や自撮りで確認できるものではなく、複数の情報を重ねて初めて見えてくる。チェックリストに○をつけて判定できるほど、単純ではないのです。
<体験談②> 自己流ケアの空回り
あるシンガーは、ライブ後の喉の疲れに長く悩んでいました。喉に良いと言われるものはひと通り試したそうです。はちみつ、加湿器、のど飴、ボーカルレスト。それでも本番のたびに数日声が抜ける。本人は「自分はケアが足りないんだ」と、さらにケアの量を増やしていました。
ですが実際に本番の声を聞き、終演後の身体に触れてみると、この方の主な原因は乾燥でも休息不足でもなく、本番での強い緊張による喉まわりの力みでした。つまり、いくら喉を保湿してもケアの方向がずれていたのです。足りなかったのはケアの量ではなく、原因を見極める視点でした。ご自身を責める必要は、まったくなかったのです。
自分の喉の疲れがどのタイプか、知りたい方へ。
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回復は「原因を見極める」ことから始まる
ここまで読んで、「では自分はどのタイプなのか」と気になった方が多いと思います。その問いを持てたこと自体が、すでに大きな一歩です。なぜなら、喉の疲れの回復は、ケアの方法を増やすことからではなく、自分の原因を見極めることから始まるからです。原因が分かれば、ケアは自然と絞り込まれ、空回りしなくなります。
この記事は、その地図にあたるものです。発声そのものを支える筋肉や呼吸の仕組みについては、「発声に必要な筋肉とは何か」で詳しく解説しています。声を使う身体の土台を理解したい方は、あわせて読んでみてください。
そして、この記事で大づかみに紹介したタイプ2(緊張・力み)とタイプ3(全身の疲労・炎症)については、それぞれを掘り下げた記事を今後公開していく予定です。声の兆候や身体のサインから、どこを手がかりに原因を見立てていくのか。私が現場で実際に見ているものを、順を追ってお伝えしていきます。
本記事で示した3つのタイプ分けは、私の現場での観察に基づく整理であり、すべての喉の疲れを説明するものではありません。声のかすれや喉の違和感が2週間以上続く場合、強い痛みや息苦しさを伴う場合、出血や発熱がある場合などは、声帯ポリープや炎症性の疾患など、医療的な対応が必要な状態の可能性があります。自己判断でケアを続けず、必ず耳鼻咽喉科などの医療機関を受診してください。本記事は診断や治療に代わるものではありません。
まとめ 同じ疲れでも、原因はあなただけのもの
ライブ後に喉が疲れる原因は、ひとつではありません。歌い方・発声の問題(タイプ1、発声の専門家の領域)、緊張や力みで喉を締めるタイプ(タイプ2)、全身の疲労や炎症で回復が遅れるタイプ(タイプ3)。同じ「喉が疲れた」という訴えでも、起きていることは人によって違います。だからこそ、全員に同じケアを当てはめても、効く人と効かない人が出てくるのです。
回復への近道は、ケアを増やすことではなく、自分の原因を見極めることです。そして正直なところ、その切り分けはご自身ひとりでは難しい。声を聞き、身体に触れ、生活や検査の情報を重ねて、初めて見えてくるものだからです。原理は誰にとっても共通でも、あなたの喉の疲れの原因は、あなただけのもの。もし「自分はどのタイプなのか知りたい」と感じたら、一度ご相談ください。原因が分かれば、ケアの空回りは終わります。
声・身体・パフォーマンスのお悩み、まずはご相談ください。
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「まず体系的に学びたい」という表現者の方へ。
歌手・俳優・ステージモデルなど、声と身体を使う表現者のための身体づくりコミュニティ「VOICE COMMU」では、運動・施術・栄養・心理の4つの視点から、現場で見えてきたことを発信しています。表現者を支える側を目指す方にも。
VOICE COMMU の紹介を読む →- Tomlinson CA, Archer KR. Manual therapy and exercise to improve outcomes in patients with muscle tension dysphonia: a case series. Physical Therapy. 2015;95(1):117-128. doi:10.2522/ptj.20130547(PubMedにて確認)
- Behlau M, Oliveira G, Pontes P. Vocal fold self-disruption after phonotrauma on a lead actor: a case presentation. Journal of Voice. 2008;23(6):726-732. doi:10.1016/j.jvoice.2008.03.006(PubMedにて確認)
1977年生まれ。2002年パーソナルトレーナーとして開業。2005年、日本で初めてとなる完全個室の表参道プライベートジム「BODY DIRECTOR」を設立。
クライアントはエンターテイメント業界のアーティストや企業経営者が中心。筋トレだけでは健康効果に限界があるとの考えから、生化学を基にした栄養指導、自律神経系の調整に有益な整体をパーソナルセッションとして提供。
法人クライアント:ポニーキャニオン(IRORI Records)、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス、トイズファクトリー、トランジットジェネラルオフィス、ラストラムミュージックほか。