「何を飲むか」で、リスクが変わる。お酒と寿命の最新研究。

「何を飲むか」で、リスクが変わる。お酒と寿命の最新研究。

TOMOYUKI SHIMAWAKI(島脇 伴行) トレーナー/ヘルスコーチ|BODY DIRECTOR

参考文献:査読済み臨床試験・系統的レビュー

この記事でわかること
  • 2026年ACC年次総会で発表された、34万人・13年追跡の大規模研究の概要
  • 多量飲酒が死亡リスク・がんリスクをどれだけ高めるか、数字で見る事実
  • ビール・スピリッツとワインで、なぜリスクの傾向が異なるのか
  • 「ワインは身体にいい」が単純には言えない理由と、研究の限界
  • 「なんとなく飲む」から「選んで飲む」へ、今日から実践できる考え方

「お酒は身体に悪い」と言われる一方で、「ワインは少量なら心臓にいい」という情報も耳にする。この相反するメッセージに、あなたも迷ったことがあるのではないでしょうか。2026年3月、世界で最も権威ある心臓病学会(ACC:米国心臓病学会)の年次総会で、この問いに対する大きな答えが発表されました。英国の34万人超を13年以上追跡した大規模研究が示したのは、「量だけでなく、何を飲むかでリスクはまったく違う」という、シンプルでいて深い事実です。

<体験談> 「健康のためにワイン」という選択

あるクライアントのことを思い出します。大手企業の経営者で、毎晩の晩酌を欠かさない方でした。「ビールをやめてワインにすれば、身体にいいと聞いたので替えました」と、ある日セッションで話してくれたのです。

確かに「赤ワインはポリフェノールが豊富」「適量なら心臓を守る」という情報は以前から存在していました。しかし私が気になったのは、その「量」でした。聞けば、毎晩グラス3〜4杯。ワインに替えたことで、なんとなく「健康的になった」という安心感が生まれていたのです。

このような「ヘルシーなイメージの食品を選んだことで、量への意識が甘くなる」という現象は、栄養行動学で「ヘルス・ハロー効果」とも呼ばれます。今回の研究は、その思い込みを冷静に整理するヒントを与えてくれると感じています。

世界最大規模の研究が示した「量だけでは語れない」真実

2026年3月、米国心臓病学会(ACC)年次総会で発表されたこの研究は、英国バイオバンク(UK Biobank)のデータを用いた大規模前向きコホート研究です。対象は英国在住の34万人以上、追跡期間は平均13年以上にわたります。飲酒の「量」だけでなく「種類」——ビール、ワイン、スピリッツ(蒸留酒)——を分けて分析した点が、従来の研究と大きく異なります。

Research — ACC Annual Scientific Session, 2026

英国バイオバンクを用いた前向きコホート研究(n=340,000超、追跡期間13年以上)。飲酒量と種類(ビール・ワイン・スピリッツ)を層別化し、全死亡・心血管疾患死亡・がん死亡のリスクを解析。多量飲酒では種類を問わずリスクが上昇した一方、低〜中程度の飲酒においてはワインで保護的な関連が示され、ビール・スピリッツでは示されなかった。研究者は交絡因子(ライフスタイル・社会経済的背景)の可能性を認めており、因果関係は確定していない。

多量飲酒のリスク:ビールもワインも例外なし

まず、多量飲酒(男性で1日3杯以上、女性で1.5杯以上が目安)については、飲んでいるものの種類にかかわらず、リスクが明確に上がるという結果が出ています。

具体的には、多量飲酒者では非飲酒者と比べて、あらゆる原因による死亡リスクが24%増加、がんによる死亡リスクが36%増加という数字が示されました。ビールであっても、ワインであっても、スピリッツであっても、この傾向は変わりません。

「ワインだから大丈夫」という考え方は、少なくとも多量に飲む場合には、データが支持していないのです。

低〜中程度の飲酒:「何を飲むか」で明暗が分かれる

一方、低〜中程度の飲酒(一般的に、男性で1日1〜2杯程度、女性で1杯程度)においては、種類によって傾向が大きく異なりました。

01
ビール・チューハイ
低〜中量でも心臓病による死亡リスクが約9%増加。「少量なら安全」という根拠は示されなかった。
02
スピリッツ(蒸留酒)
ウイスキー・焼酎・ウォッカなど。低〜中量でもビールと同様に心臓病リスクの上昇傾向が確認された。
03
ワイン(低〜中量)
同じ量であれば、心臓病による死亡リスクが21%低下という保護的な関連が観察された。
04
多量飲酒(全種類)
種類を問わず全死亡リスク24%増・がん死亡36%増。ワインも多量になれば例外ではない。

なぜワインだけ傾向が違うのか

この結果を受けて、多くの人が抱く疑問があると思います。「なぜワインだけ、違う傾向が出るのか」というものです。研究者たちも同様の問いを持ち、いくつかの仮説を挙げています。

三つの仮説と、研究者が認める限界

仮説① 成分の違い

赤ワインには、レスベラトロールをはじめとするポリフェノール類や抗酸化物質が豊富に含まれています。これらの成分が血管内皮の機能を維持したり、LDL(いわゆる悪玉コレステロール)の酸化を抑えたりする可能性が、複数の基礎研究で示されています。ただし、実際の飲酒量で摂取できるポリフェノール量が臨床的に意味を持つかどうかは、まだ議論が続いている段階です。

仮説② 飲み方の違い

ワインは食事と一緒に飲まれることが多い、という文化的な傾向があります。空腹時の飲酒と食事中の飲酒では、アルコールの吸収速度が異なり、血中アルコール濃度の急上昇が抑えられます。飲み方そのものが、身体への影響の緩やかさに関係している可能性があります。

仮説③ ライフスタイルの交絡

疫学研究で常に問題になるのが、「交絡因子」です。ワインを好む人は、そうでない人と比べて全体的に食事の質が高く、運動習慣や定期的な健診受診など、健康行動全般に積極的な傾向があることが知られています。つまり、「ワインを飲んでいるから健康なのか、健康な生活をしている人がワインを選ぶ傾向にあるのか」という因果の方向性が、観察研究では切り離せません。

研究者自身も「これらの要因が複合的に作用している可能性が高い」と述べており、現時点では「ワインを飲めば健康になる」という因果関係を確定するには至っていません。

Research — European Heart Journal, 2022

メンデルランダム化(遺伝的手法を用いて交絡を除いた解析)を用いた研究では、アルコール全般の心血管系への「保護効果」は大幅に弱まるか消失するという報告もあります。「適量のアルコールは心臓にいい」という長年の定説を、より厳密な手法で検証すると支持されない可能性があることを示唆しており、科学的議論はまだ継続中です。

「適量」の定義と、日本人が気をつけるべきこと

今回の研究で用いられた「1杯」は、欧米の標準単位(UK unit:アルコール8g)に基づいています。日本の「1合」や「グラス1杯」はサイズや濃度によって大きく異なるため、単純な比較には注意が必要です。

また、日本人の約40〜50%はALDH2(アセトアルデヒド脱水素酵素2)の活性が低い「フラッシャー」体質であることが知られています(Eng et al., 2007)。少量のアルコールでも顔が赤くなる方は、アセトアルデヒドの分解が遅く、発がんリスクが高まりやすい傾向があります。この場合、欧米人を対象とした研究の「適量」をそのまま当てはめることは適切ではありません。

厚生労働省は「節度ある適度な飲酒」として純アルコール量で1日20g(ビール中瓶1本、日本酒1合に相当)を目安としていますが、これも個人差があります。飲むと顔が赤くなる方は、この目安よりもさらに控えめにすることが推奨されています。

<体験談> クライアントの変化:「なんとなく」をやめた日

冒頭でご紹介した経営者のクライアント。その後、私と一緒にこういう会話をしました。「毎晩3〜4杯というのは、習慣ですか、それとも楽しみですか?」

少し考えてから、「……気づいたら飲んでいる、という感じです」と答えてくれました。そこから、「週に2〜3日は飲まない日をつくる」「飲む日はグラス1〜2杯にとどめる」という具体的な目標を立てました。ワインを「やめる」のではなく、「意識して選ぶ」というアプローチです。

3ヶ月後、睡眠の質が改善し、翌朝のパフォーマンスが上がったと報告してくれました。飲む量を減らしたことで、かえってワインを楽しめるようになった、とも。「なんとなく飲む」から「選んで飲む」への移行。これが、身体と長くつき合うための第一歩だと私は考えています。

今日から実践できる「選んで飲む」という習慣

今回の研究をふまえ、私が現場で提案していることをまとめます。これは「禁酒のすすめ」ではありません。飲むならば、できるだけリスクを下げながら楽しむための考え方です。

01
量を「見える化」する
「なんとなく」ではなく、何杯飲んでいるかを把握する。1週間の合計量を記録するだけで意識が変わる。
02
休肝日を週2〜3日つくる
毎日飲む習慣があれば、まず「飲まない日」を意識的に設ける。肝臓の回復だけでなく、睡眠の質改善にも効果的。
03
食事と一緒に飲む
空腹時の飲酒はアルコール吸収が速く、血中濃度の急上昇を招く。食事と組み合わせることで影響が緩やかになる。
04
自分の体質を知る
少量で顔が赤くなる方はALDH2活性が低い体質。欧米の研究結果をそのまま当てはめず、より少ない量を意識したい。
注意点・エビデンスの限界について

今回ご紹介した研究は観察研究(コホート研究)であり、因果関係を証明するものではありません。ワインの保護的な関連は、飲酒者のライフスタイルや社会経済的背景といった交絡因子の影響を完全には排除できていません。また、対象が英国人であるため、遺伝的・文化的背景が異なる日本人にそのままあてはまるとは限りません。

WHO(世界保健機関)は2023年に「アルコールに安全な量は存在しない」という声明を出しており、アルコールとがんリスクの関係については、少量であっても用量依存的な上昇が示されています。飲酒に関する判断は、ご自身の健康状態・体質・目標に応じて、医療専門家とも相談しながら行われることをお勧めします。本記事は医療的なアドバイスを提供するものではありません。

まとめ 日々の選択が、身体をつくる

2026年の大規模研究が改めて示したのは、「飲むなら量と種類の両方を意識せよ」というメッセージです。多量飲酒がリスクを高めることは種類を問わず共通であり、その一方で低〜中程度の飲酒においてはワインが他の種類と異なる傾向を示しました。ただしこの関連は観察に基づくものであり、「ワインを飲めば健康になる」という単純な結論を導くものではありません。

私がこの研究を通じて皆さんに伝えたいのは、「何を飲むか」よりもむしろ、「どう飲むか」という視点です。習慣として、惰性として飲んでいるのか。楽しみとして、意識して選んでいるのか。その違いが、長い時間軸で見たとき、身体の状態に差をつけていきます。

お酒に限らず、食事・睡眠・運動。日々の小さな選択の積み重ねが、私たちの身体をつくります。「なんとなく」から「意識して選ぶ」へ。その第一歩として、今夜グラスを手にする前に、少しだけ立ち止まってみてください。

References
  1. Abramson JL, et al. “Alcohol beverage type and cardiovascular and all-cause mortality: findings from the UK Biobank.” Presented at: ACC Annual Scientific Session 2026; March 2026.
  2. Millwood IY, et al. “Conventional and genetic evidence on alcohol and vascular disease aetiology: a prospective study of 500 000 men and women in China.” Lancet. 2019;393(10183):1831-1842.
  3. Biddinger KJ, et al. “Association of Habitual Alcohol Intake With Risk of Cardiovascular Disease.” JAMA Netw Open. 2022;5(3):e223849.
  4. World Health Organization. “No level of alcohol consumption is safe for our health.” WHO News Release. January 2023.
  5. Eng MY, Luczak SE, Wall TL. “ALDH2, ADH1B, and ADH1C genotypes in Asians: a literature review.” Alcohol Res Health. 2007;30(1):22-27.
  6. 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」2024年2月.
  7. Ronksley PE, et al. “Association of alcohol consumption with selected cardiovascular disease outcomes: a systematic review and meta-analysis.” BMJ. 2011;342:d671.
Author
島脇 伴行(しまわき ともゆき)
BODY DIRECTOR 代表 / アメリカスポーツ医学会認定・運動生理学士 / ヘルスコーチ

1977年生まれ。2002年パーソナルトレーナーとして開業。2005年、日本で初めてとなる完全個室の表参道プライベートジム「BODY DIRECTOR」を設立。

クライアントはエンターテイメント業界のアーティストや企業経営者が中心。筋トレだけでは健康効果に限界があるとの考えから、生化学を基にした栄養指導、自律神経系の調整に有益な整体をパーソナルセッションとして提供。

法人クライアント:ポニーキャニオン(IRORI Records)、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス、トイズファクトリー、トランジットジェネラルオフィス、ラストラムミュージックほか。

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