「やばい、もうダメかも」

この記事を読んでいる方の中にも、人生でこんな状況を実際に経験した方がいるかもしれません。

ストレスフルな出来事が重なった時など、急性のストレス反応から鬱症状や強い興奮状態に陥るケースを、私の身近でも実際に経験してきました。

私自身も、新店舗を任せる約束をしていたスタッフが

「退職したい」

と言い出した時は、銀行融資も物件契約もデザイン契約もすでに完了している状況でしたから、

「どうしよう」

と、生きた心地がしなくなった記憶が蘇ってきます。

結局、こういう時でも、どこかには落ち着くものです。でもそこに至るまでは、心理的にしんどい時間がしばらく続く。私の場合は、経営に関わる危機を感じた時にこういう心理状態になります。

一時的に紛らわせたいなら、お酒を飲めばその場だけは乗り越えられるかもしれない。でも皆さんご存知のように、それは問題解決じゃない。


じゃあ、何が本当に効くのか。

私がこれまで繰り返し助けられてきたのは、とにかく体を動かすことでした。特に「やばい」と感じた時ほど、30分ほどジョギングをする。最初は走り出すのが億劫でも、体が温まってくると、不思議と頭の中が整理されてくる。さっきまであれほど重く感じていたことが、少し遠くなる。解決したわけじゃない。でも、自分の中の何かが切り替わっている。

これは気のせいじゃない、と今なら言えます。

科学が示す「運動の力」

2023年、スポーツ医学の権威ある学術誌『British Journal of Sports Medicine』に、過去最大規模の研究レビューが掲載されました。41の研究、2,264人のデータを統合した結果、運動は鬱症状に対して統計的に大きな効果をもたらすことが示されています。

研究データ / Heissel et al., BJSM 2023

統合研究数 / 対象者数 41研究・2,264人
▶ 運動のNNT(本研究) 2 2人に1人が大きく改善
── 他の治療法との比較(NNTの数字が小さいほど効果が高い) ──
心理療法 NNT = 2.5 運動とほぼ同等
抗うつ薬 NNT = 4.3 運動より数値が大きい=効果は低め

NNT(治療必要数)とは、効果が出るために何人に実施すればいいかを示す指標です。数字が小さいほど効果が高く、運動のNNT=2は「2人に1人が大きく改善する」ことを意味します。心理療法(NNT=2.5)とほぼ同等、抗うつ薬(NNT=4.3)よりも数値が小さい——つまり、運動は既存の治療法と比べても遜色ない、あるいはそれ以上の効果を持つということです。

しかもこの効果は、有酸素運動でも筋力トレーニングでも確認されています。どちらも単独で十分に大きな効果を示している。「何をやるか」より「とにかく動く」ことの方が重要だということです。

なぜ動くと変わるのか

走ることで、脳内のセロトニンやドーパミンが分泌されやすくなります。気力や気分の安定に直接関わる神経系が、運動によって動き始める。さらにBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質が増えることで、ストレスへの回復力そのものが高まります。一言で言えば、脳がしなやかになる。

筋力トレーニングにも別の働きがあります。重いものが挙がる、昨日より一回多くできる。その小さな積み重ねが「自分にはできる」という感覚を育てる。これが自己効力感につながり、気分に直接影響してくる。加えて、鬱症状の背景にある慢性的な軽い炎症を抑える効果も、筋力トレーニングでは確認されています。

有酸素でも、筋トレでも、どちらにも意味がある。そして何より、特別な場所も道具も要らない。

ただし、運動は「万能薬」じゃない

ここで一つ、正直に言っておきたいことがあります。

運動で全てが解決する、と考えるのは飛躍しすぎです。問題がはっきり見えているなら、まずその問題に向き合うことが先です。「まだやれる」と思える気力がある時はなおさら。運動はあくまで、複数ある選択肢のひとつとして考えてほしい。

「これさえやれば全部うまくいく」という0か100かの発想は危うい。
もしそれが期待通りにいかなかった時、反動でさらにしんどい状態に追い込まれやすくなるからです。

運動は特効薬ではなく、自分を整えるための土台。そう位置づけておくことが、長く続けるためにも、心の安定のためにも大切だと思っています。

ピンチの渦中にいる時こそ

頭で考えても、ピンチの最中に答えは出ない。むしろ考えれば考えるほど、思考がループして、気持ちが重くなっていく。そういう時こそ、まず体を動かす。シューズを履いて外に出る。それだけでいい。

走り終えた後の自分は、走り出す前の自分とは確実に違う状態にいます。解決策が見つかるわけじゃない。それでも、物事の見え方が変わる。「なんとかなるかもしれない」という感覚が、かすかに戻ってくる。ピンチはチャンスの入り口だ、と思えるかどうかは、そのかすかな感覚の有無にかかっていると思っています。

身体・動き・栄養、三つの方向から

BODY DIRECTORでは、整体・運動・栄養という3方向からのアプローチを大切にしています。前記のような心の重さは、身体の歪みや自律神経の状態、栄養の偏りと複雑に絡み合っていることが多い。体の調整、適切な運動、食からのサポート。この三つが揃った時、変化の速度は変わってきます。

「木を見て、森を見る」という姿勢で、あなたの状態全体を一緒に考える。そのための場所が、BODY DIRECTORです。

参考文献:Heissel A, et al. Exercise as medicine for depressive symptoms? A systematic review and meta-analysis with meta-regression. Br J Sports Med. 2023;57(16):1049–1057.