あなたの機嫌は、エレベーターで部下に伝わっている / 情動伝染という見えない回路

あなたの機嫌は、エレベーターで部下に伝わっている|BODY DIRECTOR

あなたの機嫌は、エレベーターで部下に伝わっている 情動伝染という見えない回路

先日、YouTube「カラダ島ちゃんねる」の動画で、「感情は、知らないうちに周りに伝わっている」という話をしました。短い動画では語りきれなかった、研究の中身と、私が現場で見てきたことを、ここでゆっくりお話しします。

トレーニングや栄養の話とは少し違う、人と人との関係の話です。けれど最後には、なぜ私がジムで「身体を整える」ことにこだわっているのか、その理由にもつながってきます。お時間のあるときに、読み物として読んでいただけたら嬉しいです。


感情は「うつる」 情動伝染という考え方

まず、心理学に「情動伝染(じょうどうでんせん)」という言葉があります。英語ではエモーショナル・コンテイジョン。文字どおり、感情の伝染です。

この概念を体系的に示したのは、心理学者のエレイン・ハットフィールドらの研究です。彼らは情動伝染を、こう定義しました。人は、相手の表情・声・姿勢・動きを、無意識のうちに自動的に真似て同調させ、その結果として、感情までも互いに近づいていく、と。

「真似」が「同調」を生む、二段階の仕組み

面白いのは、これが二段階で起きるとされている点です。一段階目は、模倣です。誰かに微笑まれると、こちらもつられて微笑み返す。眉をひそめている人の前では、自分の表情もこわばる。これは、ほとんど意識されないまま起きています。

二段階目は、その模倣が、自分自身の感情を引き起こすという段階です。私たちはふつう「楽しいから笑う」と考えますが、研究が示すのはその逆もあるということ。「笑うから、楽しくなる」。表情という身体の動きが、感情そのものを作っていく、という考え方です。

図解 01
情動伝染の二段階|模倣 → 同調
① 模倣 相手の表情・声・ 姿勢を無意識に真似る ② 同調 自分の感情まで 相手に近づく 感情が 伝わる 「楽しいから笑う」だけでなく「笑うから楽しくなる」も起きている

ここに、私が強く惹かれる点があります。感情は、心の中だけで完結しているのではなく、身体の状態と分かちがたく結びついている。この記事の後半で、その話に戻ってきます。

そしてもう一つ大切なのは、情動伝染が特別な能力ではない、ということです。これはより原始的で、自動的で、誰にでも起きる、人間に共通した仕組みだと説明されています。家庭でも、職場でも、友人同士でも。人と人とが関わるところには、いつもこの伝染が静かに働いています。

📖 参考文献
Hatfield E, Cacioppo JT, Rapson RL. “Emotional contagion.” Current Directions in Psychological Science, 1993. / 同著 Emotional Contagion, Cambridge University Press, 1994.
情動伝染を「表情・発声・姿勢・動作を自動的に模倣・同調させ、感情面でも収束していく傾向」と定義した代表的研究。

職場では、感情は「さざ波」のように広がる

では、この感情の伝染は、複数の人が集まる場でどう広がるのでしょうか。それを調べた有名な研究があります。経営学者のシガル・バーセイドが2002年に発表した、「リップル・エフェクト(さざ波効果)」と呼ばれる研究です。

この研究では、経営上の意思決定を行う場面を再現し、グループの中で気分がどう伝わり、集団の動きにどう影響するかが観察されました。結果は、はっきりしていました。ポジティブな感情が伝染したグループでは、協力が増え、対立が減り、「うまくいっている」という手応えまで高まった。一方で、ネガティブな感情が伝染したグループでは、その逆のことが起きた、と報告されています。

ネガティブな感情ほど、強く・速く広がる

そして、ここがとても重要なのですが、いくつかの研究では、ネガティブな感情のほうが、ポジティブな感情よりも、強く、速く広がりやすいと指摘されています。

一人のため息。一度の不機嫌な表情。それが、自分で思っているよりもずっと遠くまで、波のように広がっていく。しかも、悪い感情のほうが速い。これを知ると、自分の状態というのは、もう自分だけのものではないのかもしれない、と感じます。特に、多くの人と関わる人——人を率いる立場の方や、チームを動かす方ほど、この波の影響は大きくなるはずです。

ただ、これは「だから感情を管理しなさい」という話をしたいのではありません。仕組みを知ると、ただ、世界の見え方が少し変わる。それだけでも、十分に面白い話だと思うのです。

📖 参考文献
Barsade SG. “The ripple effect: Emotional contagion and its influence on group behavior.” Administrative Science Quarterly, 2002.
集団内での気分の伝染を実験的に検証。ポジティブな伝染は協力を高め対立を減らし、ネガティブはその逆に働くことを示した。

あるクライアントの、エレベーターの話

ここから、研究の話を少し離れて、私が現場で実際に見てきたことをお話しします。

〈あるクライアントの話〉
以前、ある専門職の方がいらっしゃいました。仕事ぶりが評価され、役職が上がって、はじめてマネジメントを任されることになった方です。その方が、あるときこう話してくれました。職場のエレベーターで、部下と二人きりになる瞬間がある。扉が閉まってから開くまでの、わずか数十秒。以前のその方は、その短い時間に、自分のなかにある疲れや苛立ちのような感情が、なんとなく相手に伝わってしまっていたように感じていた、というのです。

その後、その方は身体を鍛え、整えることに取り組まれました。しばらくして、こうおっしゃいました。同じエレベーターで部下と向かい合っても、今はおそらく、以前とは違う、もう少し前向きな印象を伝えられているように思う、と。

これは、あくまでご本人がそう感じた、という一つの体験です。数値で測ったわけでも、効果を保証できるものでもありません。けれど私は、この話を聞いたとき、まさに情動伝染の話そのものだと思いました。あの沈黙の数十秒に、言葉を交わさなくても、感情は伝わっている。そして、その伝わるものが、身体の状態によって変わりうる。


では、なぜ「身体」なのか

なぜ、身体を整えると、伝わるものが変わるのでしょうか。私が長く現場で感じてきたことをお話しします。

感情というのは、心の問題のように見えて、実は多くが身体から立ち上がってきます。疲れの抜けない身体。整わない自律神経。浅くなった呼吸。緊張で固まった肩や首。そういう状態のとき、人は自分でも気づかないうちに、表情がこわばり、声が硬くなり、ため息が増えます。先ほどの情動伝染の話とつなげれば、そのこわばった表情や硬い声が、そのまま周りに伝わっていく、ということになります。

図解 02
身体の状態が、周りへの「伝わり方」を変える
整っていない身体 疲労・浅い呼吸・緊張 こわばる表情・硬い声 → ネガティブが周りに伝わる 整った身体 回復・深い呼吸・余裕 やわらかい表情・声 → 前向きな印象が伝わる

逆に、身体が整っている人は、表情に余裕があり、声がやわらかく、立ち姿が違います。すると、周りへの伝わり方も、自然と変わってくる。

私はこれまで、経営者の方や、ステージに立つアーティストの身体を見てきました。連日のステージで緊張した身体を、どう翌日に立て直すか。そういう現場にずっといました。そこで何度も感じたのは、身体が変わった方は、ご自身でも気づかないうちに、周りとの空気が変わっていく、ということです。「最近、会議の雰囲気が変わった気がする」。そんな言葉を、私は何度も聞いてきました。


整えることは、自分のためだけではない

ここまでの話を、整理します。感情は、表情や声を通じて、無意識のうちに周りに伝わる。これは誰にでも起きる、人間の仕組みです。そして集団の中では、それがさざ波のように広がっていく。さらにその感情は、心だけでなく、身体から生まれている。

だとすれば、身体を整えるということは、自分の調子を上げるためだけのことではないのかもしれません。あなたが整うことは、あなたの周りにいる人たちの空気を整えることにも、静かにつながっている。私は、そう考えています。

エレベーターの数十秒。会議室の空気。家庭の食卓。あなたが知らないうちに伝えているものは、思っているよりずっと多い。その出どころが身体にあるのなら、身体から変えていくことができる、ということでもあります。

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表参道のパーソナルトレーニングジム・BODY DIRECTORでは、姿勢・呼吸・自律神経の状態を個別に見る無料カウンセリングを行っています。何かを売り込む場ではなく、まずは今の身体の状態を一緒に見て、お話しする時間です。お気軽にご相談ください。
🎥 この記事のもとになった動画
この記事は、YouTube「カラダ島ちゃんねる」の動画と対になっています。映像で島脇本人の語りをご覧になりたい方は、あわせてどうぞ。
※動画は近日公開予定です。公開後、ここにリンクを掲載します。

次回は、「あなたが変わると、周りが変わる」という、もう少し不思議な話——習慣や行動が人から人へ広がっていく「社会的伝染」についてお話しする予定です。

※本記事の身体と感情に関する記述は、上記研究の紹介および島脇の現場での所感に基づくものであり、特定の効果を保証するものではありません。


表参道のパーソナルトレーニングジム・BODY DIRECTORでは、姿勢・呼吸・身体の使い方を個別に評価し、根本から身体を変えるためのトレーニング指導を行っています。「身体を通して、自分のコンディションや周りとの関係を整えたい」という方は、ぜひ一度無料カウンセリングをご利用ください。

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店舗名 BODY DIRECTOR

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最寄駅 東京メトロ銀座線・千代田線・半蔵門線「表参道駅」徒歩すぐ

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AUTHOR

島脇 伴行(しまわき ともゆき)

BODY DIRECTOR 代表  /  アメリカスポーツ医学会認定・運動生理学士  /  ヘルスコーチ

1977年生まれ。2002年パーソナルトレーナーとして開業。2005年、日本で初めてとなる完全個室の表参道プライベートジム「BODY DIRECTOR」を設立。

クライアントはエンターテイメント業界のアーティストや企業経営者が中心。筋トレだけでは健康効果に限界があるとの考えから、生化学を基にした栄養指導、自律神経系の調整に有益な整体をパーソナルセッションとして提供。

法人クライアント:ポニーキャニオン(IRORI Records)、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス、トイズファクトリー、トランジットジェネラルオフィス、ラストラムミュージックほか。

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