パーソナルトレーニングの事故はなぜ増えているのか 「負荷の一律化」という構造的問題から考える

パーソナルトレーニングの事故はなぜ増えているのか 「負荷の一律化」という構造的問題から考える

TOMOYUKI SHIMAWAKI(島脇 伴行) トレーナー/ヘルスコーチ|BODY DIRECTOR

参考文献:査読済み臨床試験・系統的レビュー

この記事でわかること
  • パーソナルトレーニングによる事故が増加し続けている構造的な理由
  • 「限界まで追い込む」指導スタイルが、なぜ特定の層に危険なのか
  • 大会競技者向けと一般向けでは、適切な運動負荷がなぜ根本的に異なるのか
  • 姿勢・動き・触診という3つの観察が、事故リスクをどう変えるか
  • 施術経験のあるトレーナーが、なぜ負荷の最適化に有利なのか

2026年5月、消費者安全調査委員会がひとつの報告書を公表した。タイトルは「パーソナルトレーニングにおける事故」。2019年から2025年の7年間に事故情報データバンクへ登録されたパーソナルトレーニング関連の事故は196件。そのうち41%が治療に1か月以上を要し、腰椎の圧迫骨折や靭帯断裂といった重篤な事案も含まれていた。問題は、件数そのものではない。事故の件数は2019年の14件から2025年には44件へと増加し続けている、という事実だ。市場が拡大する中で、なぜ事故も増えるのか。この問いに向き合うとき、「個々のトレーナーの不注意」という説明では、構造の本質には届かないように思う。

<体験談> 「限界です」と言っても続けさせられた

報告書に記録された事故事例のうち、私がとりわけ気になったのは、消費者が「限界です」「膝がこわい」「無理です」と言葉で申告したにもかかわらず、トレーナーが「ここを乗り越えないといけない」「大丈夫」と続けさせたケースが複数登録されていた、という事実だ。

体験初日に腰椎圧迫骨折で救急搬送されたケース。バーベルを持った時点で「重い」と感じながら、「補助するから大丈夫」と言われてスクワットを続け入院に至ったケース。70代の女性がバーベルを背負ったスクワットで圧迫骨折したケース。これらは事故情報データバンクに登録されたものだけであり、泣き寝入りや認識されていない事案は数に入っていない。

消費者庁が記録した196件という数字

報告書によれば、事故の93%は「転倒や器具落下といった偶発的な物理的接触」ではなく、「指示された運動種目の実施によるもの、負荷が重かった、指導が不適切だった」という内容を含んでいる。つまり事故のほとんどは、予測不可能なアクシデントではなく、設計と判断の問題として発生していると考えるのが自然だ。

事故を経験した消費者1336名へのアンケートでは、トレーナーの指示が「無理だ」と感じた428名のうち、16%が「がまんしてトレーニングを続けた」と回答している。さらに事故時の状況として「トレーナーに従った」という記述が複数見られた。

ここには、ひとつの心理的な構造がある。消費者はトレーナーを専門家として認識し、自身の身体感覚よりもトレーナーの判断を優先しやすい。その信頼の非対称性が、事故を誘発する回路として機能していた可能性がある。報告書もこの点を「サービスの構造による心理的な影響」と記述している。

パーソナルトレーニングに国家資格は存在しない。民間資格は国内だけで100以上あり、取得難易度は1日の講習から大学学部卒業が前提のものまで、幅が著しく広い。この制度的な空白が、今回の報告書が指摘する「横断的な知見の整理と共有が十分でない」という状況を生み出している背景のひとつであることは、否定しにくいだろう。

Data — 消費者庁レポート 2026
196
7年間の事故件数
(2019〜2025年)
41%
治療に1か月以上
を要した割合
93%
設計・判断に起因
する事故の割合
44件
2025年の事故件数
(2019年比3倍超)
ケガの部位:腰・股関節(30%)、膝・足(22%)、肩・腕(10%)の順に多い。年代は40代が最多(51件)で、20代〜80代以上の全年代で発生。

指導者がいるのに怪我をする時代へ

私がトレーナーとして活動を始めた頃、業界内では「ウェイトトレーニングの怪我は指導者不在の時間帯に起きやすい」というデータが共有されていた。これはある意味で直感に沿う話だ。誰かが見ていれば、フォームの崩れや無理な負荷に気づける。見ている人間がいないから事故が起きる、という論理だ。

ところが今、状況は変わっている。マンツーマンで指導者がついているにもかかわらず、怪我が起きている。消費者庁の報告書が記録した196件の事故のほとんどは、まさにその状況下で発生したものだ。「指導者がいれば安全」という前提が、もはや成立しない局面に来ているのではないだろうか。

なお近年の研究でも、怪我リスクは監督なし環境のほうが高い傾向は維持されているが(Coffey et al., Journal of Strength and Conditioning Research, 2026)、それ以上に注目すべきは、監督ありの環境における怪我の件数それ自体が増えているという実態だ。「見ているかどうか」ではなく、「何をどう判断しているか」が問われる時代になっていると私は考えている。

なぜこうなったのか。ひとつには、筋トレブームの影響があると私は考えている。パーソナルトレーニングの需要が急拡大する中で、トレーナーの供給も急増した。市場が広がるスピードと、指導の質が担保されるスピードが、釣り合っていなかったのではないだろうか。

もうひとつ、見逃せない要因がある。SNSだ。短期間で劇的な変化を見せる投稿、限界まで追い込む姿を「努力の証明」として発信するコンテンツ。えっ、と思うほど過激な負荷を当たり前のように見せる映像が、日々大量に流通している。そういった情報環境の中で、「追い込むことが良いトレーニングだ」という認識が、トレーナーにも利用者にも内面化されていった可能性がある。

専門学校や資格取得の課程で基礎を学ぶことは、事故リスクを下げることに確かに貢献すると私は思う。解剖学・生理学・運動力学の基礎を体系的に学ぶだけで、「なぜフォームが崩れると危険なのか」「なぜ疲労が蓄積した状態で高負荷をかけてはいけないのか」が理解できるようになるからだ。

しかし、これは言いにくいことだが、内情として、専門学校でしっかり勉強に向き合う生徒は限られる、という現実がある。卒業証書や資格証明書は、そこで何を学んだかを保証しない。制度の整備は必要だが、それだけで問題が解決するとは言い切れない。

ここで私が「パーソナルトレーナー」という肩書きを自己紹介で使うことを避け、「ヘルスコーチ」という言葉を選ぶようになった背景にも触れておきたい。ボディメイクがSNSで流行したことで、パーソナルトレーナーという言葉は「肉体美をつくる専門家」という印象に変わっていった感じがする。それは、私がやりたいこと、やってきたこととは少し違う。健康を構造的にマネジメントする、という仕事の性格を正確に伝えるために、私はヘルスコーチという言葉を選んでいる。

Background — 事故増加の構造的背景
FACTOR 01
市場の急拡大
供給(トレーナー数)が需要に追いつく過程で、指導の質にばらつきが生じた
FACTOR 02
SNSの情報環境
「追い込む=良い指導」という誤認識が、映像コンテンツを通じて広く内面化された
FACTOR 03
利用者の多様化
年齢・運動経験・既往歴が異なる幅広い層が利用するようになり、個別対応の必要性が増大
FACTOR 04
知見の未整備
事業者・資格団体を横断した安全基準・知見の共有が、業界全体でまだ十分でない

なぜ「一律の高負荷」が危険なのか

疲労と姿勢の崩れが、リスクの実態を変える

私が現場で23年かけて観察してきたことがある。同じ重量を扱う場合でも、その日の筋肉の疲労度や姿勢の状態によって、受傷リスクは大きく変化する、ということだ。

これは私の現場観察に基づく見解だが、運動科学の知見ともおおむね一致している。PubMedに掲載された2022年のレビュー論文(Bestwick-Stevenson et al., International Journal of Sports Medicine, DOI: 10.1055/a-1834-7177)は、急激なトレーニング負荷の増加が疲労を蓄積させ、受傷リスクを高めることを論じている。疲労は身体パフォーマンスだけでなく認知機能にも影響し、動作の精度を低下させる。結果として、同じ動作を繰り返しているつもりが、すでに異なる質の動作になっている、という状態が生じやすくなる。

一律に「この人の筋力ならこの重量」と決めてしまうアプローチは、その日の状態という変数を無視している。その無視が、事故の入り口になりうる。

Research — Int J Sports Med, 2022

急激なトレーニング負荷の増加は疲労を蓄積させ、受傷リスクを高める。疲労は身体パフォーマンスだけでなく認知機能にも影響するため、同じ重量を扱っていても、疲労状態では動作の質が低下し、怪我のリスクが変化する。(Bestwick-Stevenson et al., DOI: 10.1055/a-1834-7177 PubMedにて確認)

フォームが整わないまま負荷を上げることの意味

フォームが崩れているのに負荷を上げることは、論外だと私は考えている。

2025年にCureus誌に掲載されたレビュー論文(Kawa et al., DOI: 10.7759/cureus.94035)は、レジスタンストレーニングにおける損傷の主要因として、不適切なテクニック・過度な負荷・不十分な回復の3点を挙げている。注目すべきは、これが特定のアスリートや高齢者の話ではなく、広範な利用者を対象としたレビューとして描かれている点だ。

フォームの崩れは、関節への負荷の分散パターンを変える。本来、複数の筋肉・関節が協調して受け持つ力学的な負荷が、特定の部位に集中するようになる。その集中が、急性損傷あるいは疲労骨折という形で顕在化する。

大会競技者と一般利用者の間にある、見えない断絶

ここで問い直してみたいことがある。ボディメイク大会やフィジーク競技に出場しているトレーナーが指導する、ということを、ある種の「証明」として捉える見方が一部に存在するように見受けられる。筋肉がある、大会で評価された、それが指導力の根拠になる、という論理だ。

しかし、考えてみてほしい。最大筋力の向上や、ステージ映えするための極度な筋肥大と体脂肪削減を目的としたプログラムと、健康維持・体型改善・疲労回復を目的とする一般の方や経営者・アーティスト向けのプログラムは、目的が根本的に異なる。目的が違えば、適切な負荷・頻度・回復設計も全く異なってくる。

私が施術の現場で触れてきた経験から言えば、大会出場者の筋肉は、張りが強く、慢性的な疲労を抱えている傾向があると感じることが多い。これはあくまで現場での観察であり、全ての大会出場者に当てはまるものではないが、高強度・高頻度のトレーニングが筋肉のコンディションに特有の状態をつくり出すことは、運動生理学的に考えても不自然ではない。問題は、そのプログラム設計の哲学を、目的も身体状態も異なる一般利用者にそのまま適用することにある。

Comparison — 目的が違えば、設計も全く異なる
大会競技者向け
目的:最大筋力・筋肥大・体脂肪削減
負荷:高強度・高頻度
回復:計画的なピーキング
前提:高い運動耐性・競技目的
一般利用者向け
目的:健康維持・体型改善・疲労回復
負荷:その日の状態に応じた個別設定
回復:日常生活との両立を前提
前提:多様な年齢・既往歴・体力水準
この二つは目的が根本的に異なる。大会向けのプログラム設計哲学をそのまま一般利用者に適用することに、事故の温床となりうるリスクがあると私は現場から考えている。

<現場から> 施術で触れてわかること

以前、ヒートトレーニングやサーキットトレーニングを展開していた大手スポーツブランドのプログラムで、怪我が相次いでいるという話を耳にすることがあった。限界付近まで追い込む、全員が同じメニューをこなす、というスタイルが採用されていた。

私が感じたのは、そこに「設計思想の問題」があるということだ。一律化されたプログラムは、管理しやすく、スケールしやすい。しかしトレーニングとは本来、一人ひとりの状態への応答として設計されるべきものだ。スケールの論理と、個別化の論理は、方向性として相反する面がある。そしてその矛盾が、身体という正直な媒体を通じて、事故という形で顕在化することがある。

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姿勢・動き・触診、この3点がなければ負荷は決められない

では、どう考えればよいのか。私が現場で大切にしているのは、3つの観察だ。①姿勢を見る、②動きを見る、③触れる。この3点が揃って初めて、その日・その人に対して適切な負荷を判断できると考えている。

とくに「触れる」という行為は、見た目には現れない情報を拾う。筋肉の硬さ、張りのパターン、疲労の偏り。施術を通じて人の体に触れてきた経験は、運動メニューの設計に直接影響する。どのくらいの硬さなら負荷を下げるべきか、どこに疲労が残っているなら今日はその動きを外すべきか、という判断は、触れることで精度が上がる。

Method — 負荷判断の3点セット
01
姿勢を見る
静止状態での重心・骨盤の傾き・脊柱のカーブを確認。その日の疲労や筋緊張のパターンが現れる
02
動きを見る
実際の動作パターンを観察。代償動作(本来使うべき筋肉が使えず他の部位が補う動き)の有無を確認する
03
触れる
筋肉の硬さ・張りのパターン・疲労の偏りを手で確認。視覚には現れない情報が、負荷設定の精度を上げる

2021年のPhysical Therapy in Sport誌の系統的レビュー(Burton & McCormack, DOI: 10.1016/j.ptsp.2021.04.008)は、レジスタンストレーニングにおいて「個別化(individualisation)の原則」を適切に適用している研究が全体の35%にとどまると報告している。つまり、個別化は重要であると認識されながらも、実際には徹底されていないという現実がある。

消費者庁の報告書も、事故防止のために「身体状況の共有」「適切な運動プログラムの策定」「実施中の観察と修正・中止」の3段階を挙げている。私が現場でやっていることは、この3段階それぞれに対して、施術的な感覚を重ねていく作業だと言い換えることができるかもしれない。

注意点・エビデンスの限界について

本記事は、パーソナルトレーナーの選択基準を一般化しようとするものではない。施術経験があればすべての問題が解決するわけでもなく、怪我の背景には解剖学的な個体差・既往歴・骨密度など、トレーナー単独では把握しきれない要素もある。持病や既往症のある方は、運動開始前に医師への相談を検討してほしい。また島脇の現場観察に基づく記述は、個別の経験に基づくものであり、すべての利用者や状況に一般化できるものではない。

まとめ 問われているのは、設計の思想だ

パーソナルトレーニングによる事故の増加は、「悪いトレーナーが増えた」という話ではないと私は思う。市場が拡大し、利用者の年齢・体力・目的が多様化する中で、それに応答するための設計思想が、業界全体としてまだ整備されていない。消費者庁の報告書が言う「横断的な知見の整理と共有が不十分」とは、そういう意味だろう。

一律に高負荷を扱うことが「良いトレーニング」であるという思い込みは、見直されるべき段階に来ているのではないだろうか。そして大会競技者向けのプログラム設計の哲学と、一般利用者向けのそれが根本的に異なることを、業界として明確にしていくことが、今後の事故防止に不可欠な一歩になると私は現場から考えている。

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References
  1. 消費者安全調査委員会「消費者事故等調査報告書 パーソナルトレーニングにおける事故」令和8年5月27日
  2. Kawa O, et al. Most Common Injuries in Resistance Training: Mechanisms, Therapeutic Interventions, and Preventive Strategies. Cureus. 2025;17(10):e94035. DOI: 10.7759/cureus.94035(PubMedにて確認)
  3. Bestwick-Stevenson T, et al. Assessment of Fatigue and Recovery in Sport: Narrative Review. Int J Sports Med. 2022;43(14):1151-1162. DOI: 10.1055/a-1834-7177(PubMedにて確認)
  4. Burton I, McCormack A. The implementation of resistance training principles in exercise interventions for lower limb tendinopathy: A systematic review. Phys Ther Sport. 2021;50:97-113. DOI: 10.1016/j.ptsp.2021.04.008(PubMedにて確認)
  5. Coffey K, et al. A 10-year analysis of resistance training-related injuries treated in emergency departments. J Strength Cond Res. 2026;40(1):e1-e8.
Author
島脇 伴行(しまわき ともゆき)
BODY DIRECTOR 代表 / アメリカスポーツ医学会認定・運動生理学士 / ヘルスコーチ(心理学学位取得済)
ACSM認定運動生理学士
ACSM 認定運動生理学士
世界最大の運動医学組織

1977年生まれ。2002年パーソナルトレーナーとして開業。2005年、日本で初めてとなる完全個室の表参道プライベートジム「BODY DIRECTOR」を設立。

クライアントはエンターテイメント業界のアーティストや企業経営者が中心。2007年からスタジアム・ドーム・アリーナ各種ツアーへの帯同を開始し、600公演以上の現場でアーティストのコンディショニング・栄養指導・整体・コーチングを担当。筋トレだけでは健康効果に限界があるとの考えから、生化学を基にした栄養指導、自律神経系の調整に有益な整体をパーソナルセッションとして提供。

法人クライアント:株式会社ポニーキャニオン(IRORI Records)、株式会社ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス、株式会社トイズファクトリー、株式会社トランジットジェネラルオフィス、株式会社ラストラムミュージック、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント ほか。

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