スクワットの正しいやり方とは|プロが見る「フォームより大切な体の使い方」
TOMOYUKI SHIMAWAKI(島脇 伴行) トレーナー/ヘルスコーチ|BODY DIRECTOR
参考文献:査読済み臨床試験・系統的レビュー
- ●なぜ「正しいフォーム」を意識するほどスクワットが固く、しんどくなるのか、その理由がわかる
- ●膝や腰が痛くなる・効かないのは、フォーム以前に「体の使い方の癖」が原因かもしれないと気づける
- ●プロがスクワットを見るときに最初に確認している「どこに無理がかかっているか」という視点がわかる
- ●フォームを直す前に、股関節や足首の可動性を整えることがなぜ効率的なのか、その順番の理由が理解できる
- ●自宅でできる、可動性を取り戻すための準備の動きと、しなやかに動くための考え方がわかる
「スクワットの正しいやり方を知りたい」。そう思ってこのページにたどり着いた方が多いと思います。膝はつま先より前に出さない、背筋を伸ばす、お尻を後ろに引く。こうした「正しいフォーム」を、あなたもどこかで見聞きしたことがあるはずです。ところが、私は26年間トレーナーとして現場に立ってきて、あることに気づきました。正しいフォームを意識すればするほど、動きが固くなり、かえって膝や腰を痛めたり、思うように効かなくなったりする方が、とても多いのです。この記事では、競合の解説記事とは少し違う角度から、「フォームを覚える前に大切なこと」をお話しします。
<体験談> フォームは完璧なのに、なぜか膝が痛む
よくあるパターンがあります。動画や本で熱心に勉強され、フォームをきれいに覚えてこられる方です。実際、止まった姿勢で見ると、教科書通りに整っている。膝の向きも、背中のラインも、申し分ありません。それなのに「膝が痛い」「腰が張る」とおっしゃる。一見すると、矛盾しています。
でも、実際に動いていただくと、答えが見えてきます。静止画では正しくても、しゃがんで立ち上がるという一連の動きの中で、体のある一部分にだけ無理が集中している。本人は「正しくやろう」としているのに、その意識が、かえって動きを一か所に固めてしまっているのです。これはフォームの知識の問題ではありません。体の使い方の癖の問題です。
正しいフォームを意識するほど、スクワットは固くなる
最初に、少し意外なことを申し上げます。スクワットでは、正しいフォームを意識しすぎてはいけません。やり方を知りたい方に向かって逆のことを言うようですが、これは私が現場で繰り返し確かめてきた、大切な視点です。
人間の体には、本来そなわっている自然でなめらかな動きがあります。一定のリズムで単調に動くのではなく、ゆらぎを含んだ、しなやかな動き方です。こうした自然界に共通するゆらぎは「1/fゆらぎ」と呼ばれ、人の心地よい動きや、ろうそくの炎、小川のせせらぎなどにも見られるものです。ところが、「膝はここ、背中はこう」と形を強く意識した瞬間、体はこの自然な動きから離れ、固く、こわばった動きになります。
固い動きには、代償がともないます。その固さを保つために、本来なら使わなくてよい筋肉まで動員し、余計なエネルギーを使ってしまうのです。もちろん、大きく硬い筋肉をつけることが目的なら、それでも構いません。けれども、多くの方が本当に望んでいるのは、そういう体ではないはずです。日常の動作にそのまま生きる、しなやかでナチュラルな筋肉。階段が楽になる、長く立っても疲れにくい、姿勢が整う。そういう体のはずなのです。
興味深いことに、トレーニングの最新の考え方も、同じ方向に進んでいます。かつて常識とされた「膝はつま先より前に出してはいけない」という指導は、近年見直されつつあります。膝の動きを無理に抑え込もうとすると、その負担が腰や背中に回ってしまう。むしろ股関節を主役にして、足裏全体で自然に床を踏む。形を固めるより、無理のない動きにまかせる、という考え方です。私が長年お伝えしてきたことと、ここは重なります。
プロは「どこに無理がかかっているか」を見ている
では、私がお客様のスクワットを見るとき、何を見ているのか。フォームが教科書通りかどうか、ではありません。「どこに無理がかかっているか」を見ています。そして、その奥にあるもの、動き自体のしなやかさを見ています。
体の使い方の癖は、スクワットだけに現れるものではありません。普段の歩き方、立ち方、座り方。私の専門でいえば、シンガーのステージ上の所作にも、同じ癖が顔を出します。つまり、スクワットという一つの動作は、その人の体の使い方そのものを映す鏡なのです。だからこそ、フォームという表面だけを直しても、根っこにある癖が変わらなければ、無理のかかる場所は変わりません。
「しなやかな動き」と「固い動き」は何が違うのか
ここで、よく混同される二つの言葉を整理させてください。「可動性」と「しなやかさ」です。
可動性とは、関節がどこまで動くか、という動きの「範囲」のことです。一方でしなやかさとは、その範囲の中をどう動くか、という動きの「質」のことです。たとえば、関節の可動域そのものは十分にあっても、動きがぎくしゃくして一点に力みが集まっていれば、それはしなやかとは言えません。逆に、可動域は人並みでも、全身がなめらかに連動して動けば、無理がどこか一か所に集中することはないのです。
私が見ているしなやかさとは、後者です。可動性はあくまで、そのしなやかさを支える要素の一つにすぎません。範囲が広がれば、しなやかに動ける余地は増える。けれども、範囲を広げただけでは、質は変わらない。ここを取り違えると、ストレッチで体を柔らかくしたのに動きが良くならない、ということが起こります。
PubMedで確認できる研究に、興味深い報告があります。足首を体重をかけた状態で前に深く曲げられる人ほど、スクワット中に膝が自然に深く曲がり、動作の質が高いという結果です。逆に、力を抜いて他人に動かしてもらう測定では、こうした差は見えてきませんでした。つまり「実際に自分の体重を支えながら、どう動けるか」が動作の質を左右するのであり、ただ関節が柔らかいかどうかとは別の話だ、ということを示唆しています。動ける体かどうかが、フォームより先に問われているのです。
<体験談> 体を整えたら、フォームが勝手に変わった
もう一つ、よくあるパターンをお話しします。フォームを何度直しても、しゃがむとどうしても膝が内側に入ってしまう方がいました。本人は一生懸命、膝を外に向けようとしている。けれど、できない。意識すればするほど、体全体がこわばっていく。
そこで私は、フォームの指示をいったんやめました。代わりに、股関節や足首のまわりの筋肉や筋膜を、手技と簡単な動きで整えてから、もう一度しゃがんでもらった。すると、どうでしょう。何も言っていないのに、膝が自然と正しい向きにおさまったのです。ご本人がいちばん驚いていました。フォームを直したのではありません。動ける体に整えただけで、動きのほうが勝手に変わったのです。
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フォームを直す前に、体を整える。順番が逆なんです
ここまでお読みいただければ、私がお伝えしたいことが見えてきたと思います。スクワットでつまずく多くの方は、順番が逆なのです。フォームをいきなり直そうとする。けれども本当は、フォームを直す前に、しなやかに動ける体に整えることが先なのです。
関節の動きが悪くなる原因の大半は、関節そのものではなく、関節を取り巻く筋肉や筋膜にあります。ここが固まっていると、いくらフォームを意識しても、体は思うように動いてくれません。だから、手技や動きでまわりを整えてから動かす。すると、先ほどの体験談のように、動きのほうが自然と変わっていきます。これが、遠回りに見えていちばん効率のよい道です。
膝の痛みについても、同じことが言えます。膝は、股関節と足首という二つの関節に挟まれた、いわば中間の関節です。股関節や足首が十分に動かなければ、そのしわ寄せが膝に集まります。膝だけを見てフォームを直しても解決しないのは、原因が膝の上下にあるからです。
スクワットがもたらす効果そのものについては、別の記事で詳しくまとめています。あわせて読みたい方は、スクワット効果の新事実:科学が証明する8つの驚きのメリットもご覧ください。やり方を整えたうえで続ければ、その効果はより確かなものになります。
膝や腰、股関節に強い痛みや違和感がある場合、また関節に既往がある場合は、自己判断で続けず、整形外科などの専門家にご相談ください。痛みは体からの大切なサインです。なお、この記事で紹介した研究は主に健康な成人を対象とし、足首の動きと動作の関係を観察したものです。動きの良し悪しには骨格や柔軟性などの個人差が大きく、すべての人に同じことが当てはまるわけではありません。本当に自分の体に合った動きは、対面での評価を通してこそ見えてきます。
まとめ 「正しい形」より「しなやかに動ける体」を
スクワットの正しいやり方を探していた方にとって、少し意外な内容だったかもしれません。けれども、お伝えしたかったことは一つです。正しいフォームという「形」を追いかけるより、しなやかに動ける「体」を取り戻すこと。順番を入れ替えるだけで、膝や腰の負担は減り、効きも変わってきます。
フォームは、整った体から自然に生まれてくるものです。形から入って体を固めるのではなく、体を整えて動きにまかせる。これが、長く続けられて、日常の動作にまで生きてくるスクワットへの近道です。今日からまず、しゃがむ前のひと手間、体を温めて足首と股関節をゆるめることから始めてみてください。
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- Dill KE, Begalle RL, Frank BS, Zinder SM, Padua DA. Altered knee and ankle kinematics during squatting in those with limited weight-bearing-lunge ankle-dorsiflexion range of motion. J Athl Train. 2014;49(6):723-32. doi:10.4085/1062-6050-49.3.29(PubMedにて確認)
- Fong CM, Blackburn JT, Norcross MF, McGrath M, Padua DA. Ankle-dorsiflexion range of motion and landing biomechanics. J Athl Train. 2011;46(1):5-10. doi:10.4085/1062-6050-46.1.5(PubMedにて確認)
- King MG, Lawrenson PR, Semciw AI, Middleton KJ, Crossley KM. Lower limb biomechanics in femoroacetabular impingement syndrome: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2018;52(9):566-580. doi:10.1136/bjsports-2017-097839(PubMedにて確認)
1977年生まれ。2002年パーソナルトレーナーとして開業。2005年、日本で初めてとなる完全個室の表参道プライベートジム「BODY DIRECTOR」を設立。
クライアントはエンターテイメント業界のアーティストや企業経営者が中心。筋トレだけでは健康効果に限界があるとの考えから、生化学を基にした栄養指導、自律神経系の調整に有益な整体をパーソナルセッションとして提供。
法人クライアント:ポニーキャニオン(IRORI Records)、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス、トイズファクトリー、トランジットジェネラルオフィス、ラストラムミュージックほか。